こんにちは。ほんだ整骨院の山内です。
足首の捻挫(ねんざ・靭帯損傷)はどうしても軽視されやすいケガです。
「骨が折れていないから大丈夫」って言われたことありませんか?
でも、それは間違いです。
骨折も靭帯損傷も同じぐらい重症度は高いのです。
むしろ、治りにくい(受傷前の状態に近づきにくい)のは、靭帯損傷のほうなんです。
ということで、今回は自分や周りの人にも起きることがある足首の捻挫で断裂しやすい「前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)の損傷」を紹介していきましょう。
『前距腓靭帯損傷。足首の内返しで断裂しやすい!後遺症にも要注意‼』
このページでは「前距腓靭帯損傷」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガをした場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。
前距腓靭帯の役割と場所
まずは読み方から。
前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)とよみます。
英語では、「Anterior Talofibular Ligament」
略して「ATFL」っていうこともあります。
平らな帯のような靭帯で、腓骨外果(外くるぶし)の前方から距骨(きょこつ)をつないでいます。
足関節(足首)をつま先を下げる(底屈)ように動かすと、距骨は脛骨(けいこつ)と踵骨(かかと)に後ろ側が挟まれて、前方に押し出されようとします。
距骨が前方にはみ出ないようにしているのが「前距腓靭帯」。
さらに外側の動揺性を防ぐための支持機構として内反を防ぐ役割もしています。
足首の底屈は、歩行時や運動時に重要な役割を果たしています。このときに前距腓靭帯が足関節の安定性を保っているんですね。
内返しねんざ(内反捻挫)で損傷しやすい!
足首の内返し(内反)とは、足裏(足底)を内側に向ける動きです。
このときに足関節を底屈(つま先を下げる)させていくと内返しの可動域が広がります。
関節は可動域が広いと不安定性は増加します。
足首の内返しでいちばん最初に強い張力がかかりやすいのが前距腓靭帯です。
内反捻挫で前距腓靭帯の損傷が最も多い理由です。
〇内返し時、いちばん最初に張力がかかる
〇内返し可動域が広い(底屈時に不安定になりやすい)
前距腓靭帯の損傷は、内反強制による損傷のほとんどで起きるのでスポーツ現場ではもちろん、日常生活でも数多く見られます。
起きやすい年齢としては、動きが活発な年代の子ども~10代が多いのですが、大人~高齢者までさまざまな年代で見られるのも特徴のひとつです。
ハイヒールや厚底靴・段差・階段・スポーツ現場・でこぼこ道・ものを踏んだ!・・・・
前距腓靭帯損傷に合併しやすい部位
前距腓靭帯単独での損傷も多いのですが、底屈の角度・強制力の強さによって合併症も考慮に入れなくてはなりません。
前距腓靭帯損傷の多く(約3割)に踵腓靭帯の損傷を合併するといわれています。
(参考記事:内返し捻挫のときは、踵腓靭帯の損傷もチェック!⇒踵腓靭帯(しょうひじんたい)。足首捻挫に合併しやすい靭帯断裂)
足根洞の外側開口部にある外側距踵靭帯・骨間靭帯・頚靭帯も足関節の外側を支持している機構のひとつ。
他にも足関節内側に痛みを生じている症例も見かけます。
損傷度が大きいほどその傾向は強くなり、内側の靭帯や関節軟骨が圧迫されて生じる損傷だと考えられます。同時に足関節内側にある「後脛骨筋腱」が内果(内くるぶし)と踵骨(かかと)に挟まれて損傷を生じることもあり、その場合にも内果周囲にも腫れや内出血を生じます。
また、前距腓靭帯(ATFL)を損傷することで起きる「足関節の不安定(動揺)」による二次的損傷の可能性も考えられます。
鑑別を要する損傷
前距腓靭帯と同じ発生機序で損傷しやすい疾患は、損傷する場所も近いので間違われやすいこともあります。
とくに受傷後時間が経過すると腫脹が広がって、見た目だけでは判断できなくなります。
外果剥離骨折
前距腓靭帯の牽引力によって、外くるぶしの骨が一緒にはがれてしまうものです。
⇒【外果剥離骨折】足をひねって・・・外くるぶしが骨折する?!
第5中足骨基底部骨折(ゲタ骨折)
内反強制による短腓骨筋腱の牽引力で第5中足骨基部が剥離します。小趾側の足底に近い突起部分の裂離骨折です。
⇒軽視はダメ!【下駄骨折】捻挫に似ているが立派な「骨折」
裂離せずに炎症のみの場合は。⇒足の外側の骨が痛い!「短腓骨筋腱付着部炎」原因と再発予防。
二分靭帯損傷・踵骨前方突起裂離骨折
底屈の角度が強い状態で内反強制が働くと損傷する靭帯です。
二分靭帯の付着部の裂離(剥離)骨折も起きることがあります。
前距腓靭帯よりも少し前方に圧痛・腫脹がでます。
⇒「二分靭帯」の損傷。足首を捻って足の甲の外側が腫れた!
踵骨の前方突起の骨折は?⇒足首がねじれて起きる「踵骨前方突起骨折」とは?
腓骨筋腱炎・腓骨筋腱脱臼
外くるぶしの後ろから下をまわる腓骨筋腱(ひこつきんけん)が、内反強制によって起きるものです。
前距腓靭帯と合併することもあります。
⇒【外くるぶし】の下や後ろの痛み。「腓骨筋腱炎」は足の着き方が原因!
もうひとつ深刻な疾患が「短腓骨筋腱縦断裂」⇒足首外側(外くるぶし後ろ)の痛み。「短腓骨筋腱縦断裂」(損傷)はどんな疾患?
前距腓靭帯損傷における症状
皮下出血斑…著明
足関節動揺性…損傷程度による
圧痛…外果前方
荷重時痛…損傷程度による
徒手検査…内反ストレステスト・前方引き出しテスト
外果(外くるぶし)周囲の腫脹(腫れ)が強いです。
圧痛(押して痛い)は外果前方~下方に生じます。
重症度が高くなるほど内出血斑は強く(濃く広い)なります。
皮下出血は、アキレス腱と踵骨の間から外くるぶしの下、ときには足裏までに及ぶことがあります。
損傷の程度によって、荷重歩行が困難になることもあります。
足関節の内返しを強制して、疼痛の場所を探ります。
損傷具合をみるために、内反ストレスをかけながらレントゲン撮影をすることもあります。
足関節より下部(踵骨)を前方に引き出す検査です。
前距腓靭帯は距骨が前方に引き出されないように押さえている靭帯です。
損傷していると容易に距骨~踵骨が前方に移動するとともに、患者は不安感を訴えます。
※注意
ベッド(ふとん)で仰臥位(仰向け)にかかとをつけて横になるだけでも前方引き出し状態(前距腓靭帯を引き離す)になります。
寝るときは、ふくらはぎの下に枕などを入れてかかとをつかないように就寝しましょう。
剥離骨折ってどんな骨折?
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治療と固定期間
↑側方まで覆うと動揺性を防げる!
受傷直後は、PRICE処置を徹底します。
(保護・安静・冷却・圧迫・挙上)
とくに受傷直後は、重症度や骨折の有無が判断しにくいことが多いです。
必ず整形外科へ受診しましょう。
2~3日間はRICE処置を継続しましょう。
なかでも、「アイシング(冷却)」は定期的に行えると治癒期間が短縮できます。
⇒受傷後のアイシング(冷却)。治療期間を短縮する効果あり!【応急処置】
同時に重症度に応じて固定します。
固定方法は、骨折や完全断裂が疑われる場合はギプスやギプスシーネ、副子(添え木)入りのサポーターなど強固に固定します。
軽度の場合には、包帯やバンド、サポーターでしっかり固定します。
サポーターの役割と注意点について⇒サポーターの役割って?注意点を守れば手軽で使いやすいツール。
固定肢位は、基本的に足関節が直角になるように(足関節が安定する!)します。
足関節底屈で固定してしまうとグラグラと動いてしまうためです。
軽度の場合…1~2週間
重度の場合…4~5週間
Ⅰ度損傷…微細な損傷
Ⅱ度損傷…部分断裂
Ⅲ度損傷…完全断裂
Ⅰ~Ⅱ度損傷の場合は、合併症がなければ保存的に治療をしていくことが多く、Ⅲ度損傷の場合はギプス固定または観血的(手術で)に治療をします。
予後と後遺症
早すぎる固定除去や再受傷、固定不十分、日常的に負担のかかる部位などの理由から予後があまりよくありません。
半数以上に足関節の慢性疼痛、足関節不安定症が残存します。
臨床をしていると陳旧性(ちんきゅうせい:昔にケガをした)の前距腓靭帯損傷もよくみられます。
前距腓靭帯損傷
↓
固定不十分・固定期間不十分
運動に早期復帰など
↓
靭帯が延長して治癒
↓
距腿関節の不安定性
↓
距骨のぐらつき・関節軟骨損傷
↓
変形性関節症
後遺症として出やすい疾患
〇足関節不安定症
靭帯のゆるみによって距骨のぐらつき・不安感。
慢性的に炎症を繰り返すと変形性関節症に移行しやすい。
足関節不安定症って?⇒「足関節不安定症」足首の長引く痛みや不安感、音が鳴ることも。
〇足根洞症候群(そくこんどうしょうこうぐん)
靭帯損傷時の血腫や炎症による足根洞(距骨の下にある空間)の痛み。
⇒足根洞症候群。ケガをした後、足首の奥に継続した痛みや痺れ。
〇変形性足関節症
距骨や周囲の骨が運動時に不安定になりやすいため、関節内でぐらつきが起きることで、関節軟骨が損傷。
慢性的に炎症がおきることで、関節の変形が起きる。
足関節が不安定になることで他の組織と干渉しやすくなります⇒足関節インピンジメント症候群ってなんだ?
〇慢性足関節炎
前距腓靭帯損傷によって、歩行時や運動時に「距骨の暴れ」がおきる。このときに周囲の関節軟骨・軟部組織に損傷が繰り返し起きることもある。
〇立方骨症候群
靱帯損傷後の「ゆるみ」によって、立方骨(足部外側の足根骨)周囲で生じる摩擦。立方骨周囲に痛みが生じる。
⇒足の外側(小指側)が痛い!「立方骨症候群」(りっぽうこつしょうこうぐん)とは?
足首の捻挫。合併症と後遺症。
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リハビリは大切!
関節を長期間おきるのが「癒着」。
軟部組織が周囲の組織にくっついてしまうことで起きるのが「関節拘縮」(かんせつこうしゅく)。
靭帯には「位置覚」、周囲の筋肉には「筋紡錘」「ゴルジ腱器官」という感覚器(関節や筋肉の動きのセンサー)があります。
靭帯損傷によってその感覚器やそれにつながる神経線維が傷ついてしまうことがあります。
さらに、長期間の固定によって、脳との電気信号のやりとりがしにくくなってしまうのです。
捻挫で固定を外したあと、負傷した側で片足立ちがグラグラするのは感覚器と筋肉への指令がうまくいっていない証拠なんですね。
ということで、可動域を取り戻すこと、神経の再教育を行うことが必要になります。
それがリハビリです。
もうひとつリハビリ(理学療法)には目的があります。
再負傷の予防!
固定(バンドやサポーター)を外したあとは、足首がグラグラしている状態。
また、損傷した「靭帯のゆるみ」は多少は生じます。
このような状態は、「足首を捻挫しやすい」状態といえるでしょう。
前距腓靭帯は随意的に強化することはできません。
そこで、足関節の外側を補強する「腓骨筋」(短腓骨筋と長腓骨筋)の強化が必要になります。
腓骨筋訓練
タオルやチューブを使って筋力強化をするのが一般的です。
つま先を下げた状態で内反→外反
タオルやチューブで負荷を調整しながら行いましょう。
このときにあまり負荷を強くしすぎると再負傷の恐れもあるので慎重に行います。
腓骨筋を強化する!
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バランストレーニング
神経と筋の再教育をするときのリハビリです。
↓慣れてきたら
浮かせた足を前後左右に動かしてみる
↓慣れてきたら
柔らかい場所でもやってみる
(座布団やふとん、バランスマットなど)
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まとめ
〇骨折や軟骨損傷、軟部組織損傷の合併に注意
〇適切な固定を行わないと後遺症を残したり、再受傷しやすい
〇リハビリは可動域訓練の他に腓骨筋訓練・バランストレーニングが必要
〇受傷後のRICE処置が大切(重症化予防・治癒期間短縮)
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