こんにちは。荻窪教会通りにあるほんだ整骨院の山内健輔です。
数あるヒトの骨の中でも、骨折の頻度が高いもののひとつ、
鎖骨(さこつ)の骨折
鎖骨は胸の上部にある、表面からも形が見えやすい骨で、胸骨(きょうこつ:胸のまん中の骨)と肩甲骨(けんこうこつ)につながっています。
後方や側方に転倒して腕や肘をついたり、肩部をついたりすることで骨折することが多いです。
とくに、鎖骨は上肢(腕全体)の動き、胸郭の動きと関わってくるので、固定しにくい特徴があります。
ということは、患部が安定しないので痛みも長く続きやすい傾向にあるんです。
今回の記事では、鎖骨骨折の概要と痛みのピークについて詳しく紹介していきます。
鎖骨骨折の痛み、ピークは2~3週間続く。安静にできるかが鍵!
このページでは「鎖骨の骨折」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。
実は多い鎖骨の骨折
鎖骨骨折は、全部の骨折の約1割を占めるといわれるほど頻度の高いもの。
鎖骨は、上肢(腕~手)と肩甲骨を体幹部に接続する役割をもっていて、つっかえ棒のように働いて上肢を自由に動かしています。
正面(前方)から見るとまっすぐに見えますが、上方から見るとカーブが二つ重なったS字状になっていて、太さも中央付近は細いです。
鎖骨には頚部と上肢帯を動かす強力な筋肉が付着しているのも特徴のひとつ。
外傷なので、年齢問わず、どの年代でも発生しますが、子ども(~10代)にも多く見られます。
固定肢位の維持が難しい(骨折部が安定しにくい)ことから、痛みのピークは受傷直後から2~3週間続くことも珍しくはありません。
鎖骨はどんな骨?
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手や肘、肩をついての損傷が多い(原因;発生機序)
鎖骨骨折の原因で多いものは、
- 転倒
- コンタクトスポーツ(サッカーやラグビーなど)
- 自転車事故
- 交通事故
多くが肩関節外転位(腕を外側に出す状態)や伸転位(腕を後方に出す状態)で手や肘をつく「介達外力」(かいたつがいりょく)。
また、前方から物がぶつかったり、肩部を強打して鎖骨が損傷したりする場合(直達外力)もあります。
※肩部を強打した場合も介達外力ともいえますが、直達外力として分類される
(かいたつがいりょく)他の部位に加わったものが組織を伝達して、離れた部位で作用する外力。
(ちょくたつがいりょく)外部からの力が直接、患部に働くもの。
介達外力によるものでは、上方に骨折端が突出しやすいのが特徴(テント状に皮膚が出っ張る)。
逆に介達外力による屈曲骨折では、第三骨片(3つ以上に分断されるもの)が生じたり、下方や後方へ突出したりすることも。
骨折の種類は?
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中央付近(骨幹部)での骨折が多い
中央1/3部分での骨折(骨損傷)が鎖骨骨折全体の80%を占めるといわれます。
〈参考:標準整形外科学第9版(医学書院)664ページ〉
次に多いのが、外側端(肩峰端)近くの骨折。
「鎖骨遠位端骨折」(さこつえんいたんこっせつ)ともいわれます。
この部分では、後々肩関節の動き関係するので慎重に対処する必要があります。
いちばん少ないのは近位側(胸骨端側)。
ほとんどが直達外力での骨折で、こちらは転位(ズレる)することは少なく、骨折部も安定させやすいものです。
固定しにくい&ズレやすい特徴
三角筋
大胸筋
僧帽筋
鎖骨下筋
胸鎖乳突筋
鎖骨に関係する筋肉は全部が強い力を発揮する筋肉です。
さらに鎖骨骨折の遠位骨片となる肩甲骨や上腕骨にも、肩関節を動かすための強力な筋肉が付着します。
上肢と体幹を骨どうしでつないでいる唯一の接続が鎖骨を介していることから、鎖骨が分断されると上肢と体幹の接続も分断することになります。
筋肉の作用と上肢の重みによって、骨折部は転位(てんい:骨のズレ)することになるんです。
近位骨片(鎖骨の胸骨側)は、胸鎖乳突筋の影響で上方。
遠位骨片(肩甲骨側)は、上肢の重み、広背筋や大胸筋、三角筋の作用で下方へ。
さらに、大胸筋や広背筋、菱形筋(りょうけいきん)は、短縮転位させる作用もあります。
骨折端どうしが互い違いになり、短縮方向にずれる。
騎乗転位(きじょうてんい)ともいわれる。
胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)
上肢の重量+三角筋・大胸筋・広背筋など
さらに、多くが屈曲骨折(くっきょくこっせつ)になる傾向にあるので、第3骨片を生じることもあります。
このように、鎖骨骨折は、転位が大きくなりやすく、転位しようとする力も大きいので、骨折部の安定を保ちにくい性質があります。
(骨折部が接触していないと骨癒合しにくい!&再転位しやすい)
また、肺は肋骨の内部にありますが、呼吸のたびに肋骨は上下します。
鎖骨は第1肋骨(いちばん上の肋骨)のすぐ上にあり、呼吸の影響を受けて痛みを感じてしまうこともあります。
(鎖骨下筋はこの第1肋骨に付着するため)
鎖骨骨折の症状と合併症
鎖骨は、皮膚の上からも触れやすい位置にある骨です。
なので、骨折は見分けやすいのも特徴で、骨折の固有症状も検知しやすいものが多いでしょう。
異常可動性:本来動かない部分が動く
軋轢音(あつれきおん):骨折端部に骨が動く音や感触
転位と変形:骨折部が解剖学的位置からズレている状態
症状:痛みのピークは長い!
鎖骨骨折のおもな症状
- 疼痛:かなり強め。疼痛緩和肢位をとる。
- 腫脹・皮下出血:骨折部からの出血と腫れ
- 皮膚突出・変形:近位骨片により皮膚がテント状に突出
- 患側の肩幅狭い:短縮転位による
- 肩関節運動不能:上肢帯(肩関節~胸鎖関節)の運動が不能になる
- 不安感:腕の重さ・首の動きで転位が増加
(とうつうかんわしい)
痛みを少しでも和らげようとする姿勢。
鎖骨骨折では、患側を反対の腕で支えるようにすることが多い。
患側は身体にくっつけるように、肩関節内旋位。
とくに痛みのピークが長いのが特徴。
受傷から2週間ほどは患部も動揺しやすく、不安感も強いです。
固定肢位の持続が難しいのと、固定した状態での日常生活に苦痛を伴いやすいことが理由。
これらによって、交感神経も過敏になったり、呼吸や頚部の動きが鎖骨に影響したりして長期間痛みが続く傾向があります。
(もちろん、日を追うごとに疼痛は減少します)
神経・血管の損傷にも注意
鎖骨周辺には、重大な神経と血管が走行しています。
骨損傷時にはこれらを同時に傷つける恐れがあるのです。
- 腕神経叢(わんしんけいそう)
腕へ向かう多数の末梢神経が走行する - 鎖骨下動脈・鎖骨下静脈
心臓に近い血管で太い - 肺損傷
第1肋骨の下には胸膜につつまれた肺がある
遠位骨片(鎖骨の上腕側)は下方に転位する傾向にあるため、これらの合併損傷にも注意が必要です。
上記の合併症がなくても生じることがありますが、
むくみ
冷え
これらの症状にも注意が必要です。
同時に「外傷性ショック」。
呼吸不全や急激な血圧低下、蒼白などの症状が現れた場合には、すぐに医療機関を受診することが大切です。
ほかには、強い外力によって骨片が皮膚を突き破って露出してしまう「複雑骨折」(開放骨折)が起きることもあります。
治療と固定期間の過ごし方
鎖骨骨折の治療は、いかに整復位(骨折端どうしを繋いだ状態)を保つかという点が重視されます。
それには日常生活の過ごし方も重要です。
転位のある完全骨折の場合、乳幼児以外は整復作業が必要になります。
骨をもとの位置に戻すこと
治療の際に最も大切なことは、鎖骨を正確な解剖の位置に戻すことです。正確な固定を行わず、骨が元の位置に戻らなければ肩甲骨、脊髄、首、そして全身にまで悪影響を及ぼします。
例えば、野球選手の場合では骨の変形によって肩甲骨が前にズレてしまうと、まともに投球することができなくなります。治療の際には医師と確認を取りながら慎重にリハビリに取り組みましょう。
医療法人社団飛翔会グループ『スポーツドクターコラム「強い固定が大事な鎖骨骨折」』より引用
保存療法と手術(内固定)
子ども(10代中盤ぐらいまで)は基本的に保存療法(手術しない方法)が選択されます。
子どもは、「自家矯正力(じかきょうせいりょく)が強く、拘縮(こうしゅく)も変形治癒も起きにくい」&「骨癒合が速い」ためです。
子どもの骨折
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(変形治癒や偽関節を残すと整容的に問題があるため、手術による内固定で解剖学的に整復されることも多いのですが、手術痕の問題も指摘されています。)
保存療法
子ども(10代中盤ぐらいまで)
手術にリスクがある
保存療法では、常に再転位の可能性があります。
固定期間は4~12週(乳幼児なら2~3週)。
期間の幅が広いのは、年齢や骨癒合に個人差が大きいため。
保存療法で固定位を保てない場合や骨癒合が見込めない場合は、手術療法(観血法)に切り替える場合もあります。
〈乳幼児〉
両肩を後方に引く(胸を張るような)ように包帯やサラシを使って姿勢を制御する。
骨折箇所には、綿を当てて押さえる。
動いていると緩んでくるので日中何度か締めなおす必要がある。
〈成人〉
鎖骨骨折用のバンド(クラビクルバンド)で料肩を後方に引くように固定する。
ギプス固定をされることもあるが、長期間のギプス固定はかなりの苦痛を伴う上に、整復位を保ったままギプスを巻くのも難しい面がある。
さらに三角巾やアームホルダーで腕を吊る(最低でも3~4週)。
手術療法
保存療法では骨癒合が望みにくいもの(重複や粉砕骨折)や、スポーツ選手など復帰を早めたい&運動パフォーマンス回復を望む場合は手術による内固定(骨を金属などで留める)が選択されます。
また、骨癒合しにくい「外側(遠位端)骨折」、烏口鎖骨靱帯の断裂も併発している場合も手術が適応されます。
キルシュナー鋼線(髄内固定)
プレート固定
「保存療法よりも転位しにくい」「解剖学的位置に癒合できる」「固定期間が相対的に短い」メリットはあるものの、固定具を取り外す際には再手術が必要。
さらに再手術後、金属固定具を取り除いた直後は、骨に穴が空き(もちろん一時的に)強度がやや弱まるのに注意が必要です。
固定期間は安静に過ごすこと
固定期間はかなり不便ですが、患側の上肢を吊って使わないことがポイント。
腕の重みも再転位の原因のひとつです。
骨癒合を早めるためには患部の安静を保つことが最重要。
なるべく患肢を三角巾やアームホルダーでつっておく必要があります。
日常生活では患側に体重をかけたり、患側を下にして寝ないようにしましょう。
また睡眠時は枕などに腕を置くことで安静にさせるのもひとつの方法です。
もうひとつは、受傷後2~3日後から手首や指は運動しましょう。
ボールを握ったり、握ったまま手首を動かしたり。
肘の運動もしたいところですが、医師と相談しながら行いましょう。
もちろん肩関節は安静です。
もうひとつ注意が必要なのは、固定期間中の神経・血管の圧迫への注意。
腋窩(えきか:わきの下)部分には動脈・静脈・腋窩神経が走行します。
リハビリはいつから?
リハビリを開始するのは、
保存━骨癒合してから
手術━術後2日~7日後から
固定除去後は肩関節の可動域制限が強いので長期間のリハビリ(機能回復訓練)が必要です。
スポーツ復帰や職場復帰までは、固定除去後4~6週必要なことも。
結果、固定期間とリハビリ期間を含めると3か月かそれ以上必要になります。
ただし、受傷前と同じパフォーマンスをとり戻すにはもっと長い目で見たほうがいいかもしれません。
リハビリはおもに肩関節の可動域訓練。
最初は自動運動(自力で動かす)。
徐々に他動運動(他者に動かしてもらう)やチューブやおもりの負荷をかけて可動域を上げていきます。
受傷後8 週目で仮骨形成の進行を確認し装具を除去,関節可動域練習や筋力強化を継続し,転位の拡大なく良好な骨癒合を認め,15 週目でスポーツ復帰をした.
関東甲信越ブロック理学療法士学会『転位を認めた鎖骨骨幹部骨折に対し保存療法を選択しスポーツ復帰を果たした一症例 松井 麻美, 竹内 大樹, 青山 倫久, 綿貫 誠』より引用
後遺症が残ることもある
鎖骨骨折は、転位しやすいのがいちばんの特徴です。
ってことは、
偽関節(ぎかんせつ)=「骨癒合しない」
変形治癒=「ズレたまま癒合」
も起きる可能性があるってこと。
ただし、骨癒合が得られなくても、線維性で結合して日常生活には不自由しないことも少なくありません。
もうひとつの問題は、
関節可動域制限
鎖骨は肩関節の運動に大きく関わっており、その部分の損傷と長期間にわたる固定は、受傷前と同じ状態に戻るのは極めて困難といえます。
鎖骨骨折は頻度の高い骨折なので、経験した人も多く、少し軽視されがちな面があります。
可動域制限が残存すると手術や固定、リハビリに原因を押し付けたりせず、ケガの病態をよく理解しておきたいですね。
まとめ
- 頻度が高い骨折
- 中央骨幹部がほとんどだが、外側(遠位端)骨折も。
- 痛みのピークは受傷後2~3週
- 整復位の維持が難しく再転位しやすい
- 偽関節・変形治癒・可動域制限が残りやすい
- スポーツ復帰までは3か月が目安
- 乳幼児~10代半ばまでは保存療法が基本
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