足首がねじれて起きる「踵骨前方突起骨折」とは?

こんにちは。荻窪北口、協会通りのほんだ整骨院、山内健輔です。

足首をひねったときに起きやすい「踵骨前方突起骨折」(しょうこつぜんぽうとっきこっせつ)。

かかとの骨の損傷です。

つま先が下がっている状態で、足ウラを内側に向けるように捻る(内反)では、靱帯の引っ張りによる剥離骨折(裂離骨折)。

つま先が上がった状態でひねると、押しつぶされるようにして圧迫骨折。

踵骨前方突起は、周囲の足根骨(おもに距骨や立方骨)との位置関係から骨折部分が見落とされやすく、「ねんざ」と診断されてしまうことがあります。

腱や靱帯など軟部組織の付着部でもあるため放置すると「偽関節」(ぎかんせつ)となり、痛みや不安定性が残存してしまう恐れがある骨折です。

今回は「踵骨前方突起骨折」について紹介します。

踵骨っ前方突起は、足関節外側。外果の少し前下方。

足首がねじれて起きる「踵骨前方突起骨折」とは?

※ご注意!
このページでは「踵骨前方突起骨折」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。

踵骨前方突起の情報

踵骨前方突起は立方骨関節面の上、前距骨関節面の前方に位置する

踵骨前方突起(しょうこつぜんぽうとっき)は、かかとの骨、前方部分にある出っ張った部分のこと。

この部分は、

短母趾伸筋(たんぼししんきん)
短趾伸筋(たんししんきん)

足指を伸ばす筋肉の付着部。

短趾伸筋は踵骨の外側前部から第2~4趾末節骨に付着。短母趾伸筋は前方突起から母趾基節骨に付着して足指を伸展させる

さらに、

二分靱帯(にぶんじんたい)

といって、踵骨・舟状骨・立方骨の3つの骨にまたがる靱帯が付着しています。

足関節外側の靱帯はおもに内反強制で足首を捻ることによって損傷する。足関節外側の支持機構になっている

ふたまたに分かれていることから「Y靱帯」と呼ばれることもあります。
(実は、人によって分かれていないこともある!)

※二分靱帯(Y靱帯)
背側踵舟靱帯(はいそくしょうしゅうじんたい)
背側踵立方靱帯(はいそくしょうりっぽうじんたい)
ショパール関節の安定性を保つ靱帯のひとつ。
※ショパール関節
横足根関節(おうそくこんかんせつ)ともいい、踵骨と距骨、舟状骨、立方骨が噛み合うようになっている部分。
足根骨遠位側の関節は「リスフラン関節」(足根中足関節)。

足根洞(そくこんどう)の前方にある立ち上がり部分でもあります。
足根洞は、距骨(きょこつ)と踵骨(しょうこつ)の隙間(空間)のことで、内部には神経終末が多く分布しています。
神経終末とは、痛みや触覚などを感じる部分のこと。

かかとの骨、各部の形と名称について。

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踵骨前方突起骨折の発生機序

おもな原因
高いヒール(内反強制)
段差(内反・外反強制)
つまづき(内反ぎみ底屈強制)
スポーツ(内反・外反強制)

内反でも外反でも生じる可能性があります。

内反ではおもに軟部組織の牽引力による裂離骨折(剥離骨折)
外反強制では、おもに突起が圧迫されることによって骨折します。

どの年代でも発生するケガですが、比較的若い世代に多い印象です。
足をひねって、発生するので「単なるねんざ」と軽視されやすく、見逃されてしまうことも多いのです。

足関節内反強制(足裏を内側に向ける動き)

内反強制による踵骨前方突起骨折では、二分靱帯の牽引によって剥離骨折となる

足関節底屈状態(つま先が下がる)で回外(母趾をもち上げる)されることで、二分靱帯の牽引力により裂離骨折が起きる。

背屈状態では踵腓靭帯損傷や外果骨折になる可能性が高いが、つま先に内転や外転強制が加わることで踵骨前方突起骨折を起こすこともある。

足関節外反強制(足裏を外に向ける動き)

外反強制による踵骨前方突起圧迫骨折では、周囲の足根骨の圧迫により圧迫骨折する

背屈状態で外反強制されると、内側の三角靱帯が損傷しやすいが、同時に立方骨や距骨に挟まれることで踵骨前方突起に圧迫力が加わり、骨損傷を生じることもある。

ショパール関節のねじれ

前足部(足指側)と後足部(かかと側)がねじれることで、裂離骨折や圧迫骨折を生じることがある。

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診断と鑑別、合併症は?

症状は、

  • 外果前下方に圧痛
  • 腫脹・皮下出血斑
  • 底屈・背屈・回外時疼痛

底屈しないようにすれば、踵骨前方突起骨折があっても歩けることが多いです。(独歩可能

踵骨骨折のうち1/4近くが前方突起骨折といわれています。
気づかずに治癒したものや見落としも含めるともっと頻度が高い骨折かもしれません。

もうひとつの症状として、骨折が短母趾伸筋短趾伸筋(ともに足指を背屈させる)の付着部に及ぶ場合は骨片が転位(ズレる)して、足指が底屈(曲がる)していることがあります。
陳旧性で偽関節になっているとクロートゥになることもあります。

見逃されやすい骨折

踵骨前方突起骨折はレントゲン写真では骨折線が写らないことがある

レントゲン写真においては、他の足根骨(舟状骨・立方骨・距骨)の陰に隠れて(重なってしまうため)骨折線が確認しにくいことがあります。

斜位や底屈位、回外位などストレス撮影によって確認しやすいといわれています。
MRIやCT撮影で確定しやすいです。

踵骨前方突起はつま先を底屈させた状態でレントゲン撮影を行うと骨折線がみえることがある

見落とされやすい原因
骨折線が見えにくい
痛みはあるが、独歩が可能(歩ける)
受傷原因(足首を捻った!)による軽視
転位が少ない(骨片がずれにくい)

これらの原因から見落とされたり、病院を受診しなかったりしたことで、「陳旧性」(ちんきゅうせい)となります。

※陳旧性
急性期・亜急性期の変化が起きる時期が経過した後、損傷や変化の痕跡が残存したもの。
骨折においては、自然治癒、変形治癒、偽関節の痕跡を残すことが多い。

過去に足関節を捻った既往をもち、同時に足関節の不安定性や音、痛みを感じる場合は、陳旧性の踵骨前方突起骨折も疑って診断していく必要があります。

鑑別すべき疾患

  1. 立方骨圧迫骨折
  2. 距骨外側突起骨折
  3. 外果剥離骨折
  4. 下駄ばき骨折
  5. 足関節外側靱帯損傷
  6. 副骨(過剰骨)

踵骨前方突起骨折と鑑別を要する骨損傷。 立方骨圧迫骨折・距骨外側突起骨折・外果剥離骨折・下駄骨折・副骨障害

足部を内反矯正して受傷する靱帯。おもに外側を支持する靱帯で、前距腓靭帯や踵腓靭帯が多いが、そのほかの部分の受傷も見逃せない

①立方骨圧迫骨折(立方骨くるみ割り骨折)
踵骨前方突起と圧痛部位がかなり近い。
発生原因も似ている。

②距骨外側突起骨折
腓骨外果のすぐ近くの骨折。
発生原因も近いことから、鑑別・合併ともにありうる。

③外果剥離骨折
前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)の牽引力による裂離骨折。
圧痛部位が違うので鑑別は容易。

④下駄ばき骨折
第5中足骨基部骨折や短腓骨筋腱付着部炎とも圧痛部位が近く、腫脹が大きい場合は鑑別が難しくなる。
画像診断が必要となる。

⑤足関節外側靱帯損傷
前距腓靭帯・二分靱帯・足根洞開口部の靱帯損傷とは、鑑別する必要がある。

※足根洞開口部の靱帯
前方から頚靱帯・骨間距踵靱帯・外側距踵靱帯。
内反強制で損傷する。

⑥副骨
踵骨前方突起上部に副骨がみられることがある。
副骨とは、幼少期の骨端部分が癒合しなかったものであることが多い。
「過剰骨」(かじょうこつ)ともいわれる。
副骨の場合、辺縁(輪郭)はなめらか。骨片の場合には鋭くギザギザ感がある。

気を付けたい合併症

同時に損傷する合併症。
修復したあとにも残る愁訴(痛みや不安定性)は後遺症。

どちらも起こりえるものです。
むしろ受傷時に単独で損傷はめずらしいともいえます。
周囲の組織損傷にも注意しながら治療を行う必要があります。

合併症

踵骨前方突起に合併しやすい損傷

〇舟状骨圧迫骨折
足関節底屈状態で内反強制が働くと、距骨、踵骨と楔状骨(けつじょうこつ)の間で挟まれて圧迫されます。

舟状骨体部圧迫骨折とは?

〇脛骨下端骨折
内反強制により、距骨が脛骨の下端部を内側から押すようにして起きます。

〇足関節周囲の軟部組織損傷
踵骨前方突起の骨折は、ショパール関節の安定性を減衰させるため、異常可動によって周囲の靱帯を中心とした他組織の損傷も頭に入れておく必要があります。

足の舟状骨の剥離骨折にも注意しよう。

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後遺症

踵骨前方突起で起きやすい後遺症として、偽関節・距骨下関節症足根洞症候群が挙げられる

〇偽関節(ぎかんせつ)
剥がれた骨片の転移が大きい場合や固定が不充分だった場合は、骨折端が癒合せず損傷面が閉じてしまうことがあります。
偽関節になっていると足関節の外側支持が不安定になります。

〇足根洞症候群(そくこんどうしょうこうぐん)
踵骨と距骨に囲まれた骨の隙間が「足根洞」
この部分の下部前面をつくるのが踵骨前方突起。
外側開口部の一角を担うのが二分靱帯。
足根洞への内出血や腫脹は、足関節への不安定性や痛みを遺します。

足根洞症候群についてくわしく。

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〇距骨下関節症(きょこつかかんせつしょう)
二分靱帯は踵骨と立方骨、舟状骨をつなぐものですが、前方突起ごと剥離することで、踵骨が外側に倒れやすくなります。(回外足になりやすくなる)
これによって距骨下関節の適合性が悪くなり、距骨下関節症へと移行します。

距骨下関節症についてくわしく。

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治療と予後

受傷直後は、「PRICE処置」(プライス処置)が基本。
応急処置「PRICE」の方法とやり方

急性期(直後~1週)は、PRICE処置を続けてもいいでしょう。

新鮮例(陳旧性ではない状態)では、保存療法での予後は良好とされています。

治療は、転位のない場合は、「保存療法」(手術しない)が原則

転位の大きいものや骨折線が関節面(距骨下関節)に及ぶものは、観血的な処置が選択されます。

ギプス固定4週~6週
肢位は背屈・外返し
免荷は松葉づえにて、1~2週ほど必要に応じて

ギプス除去後はシーネアーチサポートで、踵骨が内返し・外返しするのを防ぐ必要があります。
とくに外側縦アーチの保護を慎重に行いましょう。

骨片の転位が大きい場合やスポーツ選手で早期復帰を希望するときは、より固定期間の短い観血療法(手術)も検討されます。
骨片(転移した骨)を接合したり、除去したりすることで、回復を早めます。

陳旧例の「偽関節」の場合では、痛みを和らげる注射やサポーター固定を行い、効果をみながら骨片除去や新鮮化するための手術が行われます。

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<踵骨関節外骨折>
保存治療:転位のない前方突起骨折、踵骨体部や載距突起を含む踵骨中央部骨折→転位が2mm以下、6週間外固定・免荷
転位が2mm以下の後足部の突起および結節骨折 2-3週間外固定ののち、部分荷重開始

参考・引用:池田医院ホームページ『踵骨骨折』

踵骨前方突起骨折まとめ

  1. 二分靱帯の牽引による裂離骨折と立方骨からの圧迫骨折
  2. 背側踵立方靱帯の牽引によるものが多い
  3. 見逃されやすい。
  4. 踵骨前方突起があっても背屈位で歩けることがある。
  5. 見逃されたり、放置されたものは偽関節として陳旧化。
  6. 新鮮例では予後良好。
  7. 足関節周辺組織の損傷との鑑別
  8. 合併症や後遺症(偽関節・足根管症候群)にも注意

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