『長母趾屈筋腱炎・腱鞘炎』は足首の後ろの痛みやひっかかり感。

こんにちは。ほんだ整骨院の山内健輔です。

足首の後方でアキレス腱の前方あたりが痛くなったことはありませんか?

足首まわりには、足部を動かすための筋肉や血管、神経が多く走行しています。

そして足首は身体の体重を受けつつ、筋肉の力を地面に伝える、衝撃を受け止める役割をしています。

今回紹介する「長母指屈筋」(ちょうぼしくっきん)の腱炎や腱鞘炎は、そんな過酷な使命を受けた足首で起きる問題のひとつです。

長母指屈筋腱は内くるぶしとアキレス腱の間で痛みが出やすい

長母趾屈筋腱炎・腱鞘炎は足首の後ろの痛みやひっかかり感。

※ご注意!
このページでは「長母趾屈筋腱炎・腱鞘炎」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。

長母趾屈筋腱は足首の後方を通る腱

長母指屈筋腱は内くるぶしのすぐ下にある足根管を通り、足底内側を縦断して母趾末節骨に停止

長母趾屈筋は、下腿部後面から足首の後方を通って足底を走行、足の親指(母趾)末節骨(指先の骨)に停止する筋肉です。

作用は足首の底屈(つま先を下げる)、回外(足裏を内側に)、足の親指を曲げる動き。

起始停止・支配神経
起始部 腓骨後面の下部・下腿骨間膜(かたいこっかんまく)
停止部 母趾末節骨底(ぼしまっせつこつてい)
支配神経 脛骨神経(L5~S2)

作用
足関節 底屈・回外
母趾MTP関節・IP関節 底屈(屈曲)

もうひとつ重要な役割は、足部の縦アーチ維持
とくに内側縦アーチを保持する筋肉としても働いています。

長母指屈筋は距腿関節の上部で腱に移行して、距骨後面(アキレス腱の前)、踵骨の足根管(そくこんかん)を通ります。

足根管を通るもの

ちょうどこの距骨~足根管あたりで直角に近い角度で方向転換
急激に方向を変える場所では摩擦が生じやすい特徴があります。

足根管を通過した腱は、足底を通り母趾末節骨(足の親指の先)基部(根元部分)に付着します。

長母趾屈筋の腱と腱鞘が炎症を起こす

足首を背屈すると距骨が後方に押し出されるので©棒母趾屈筋と距骨後突起が摩擦を起こしやすい
機械的刺激を受けやすい場所
距骨後面(外側後突起)
三角骨
足根管内
長趾屈筋腱との交差部(舟状骨底面)
種子骨・中足骨頭部

長母指屈筋腱は、足首のうしろ、距骨(きょこつ)の部分であしうら側へ急激に方向転換します。

(長母趾屈筋腱は距骨の後方にある「長母指屈筋腱溝」(ちょうぼしくっきんけんこう)を通って下方に向かいます。)

足首が背屈(つま先が持ち上がる)されると距骨は押し出されるように、後方へ移動します。
このときに距骨の外側結節(距骨後突起の外側部分)と機械的摩擦が生じやすいのです。

距骨後方突起の外側結節にある長母指屈筋腱溝部分で摩擦が生じると腱鞘炎になる

もうひとつ。
「三角骨」という骨をもっている人が10%ぐらいいます。
三角骨は「過剰骨」といわれますが、ほとんどの人は無症状です。

三角骨
子どものころ分離していた距骨後突起(きょこつこうとっき)が、癒合せずに残ったもの。
または後突起がなんらかの形で分離したものといわれている。
三角骨は距骨後突起の外側結節が癒合不全または分離したものといわれていて長母指屈筋腱とこすれやすい

ですが、この三角骨は長母指屈筋腱のすぐ横にあるので、摩擦によって腱炎や腱鞘炎を引き起こします。
(足根管の内部では長母指屈筋腱は腱鞘に包まれています)

これが、長母趾屈筋腱炎です。
長母趾屈筋腱障害ともいいます)

長母指屈筋腱は比較的長いので距骨後方以外にも、

  • 足根管
  • 長趾屈筋腱との交差部分
  • 種子骨どうしの間・母趾中足骨頭部

でも摩擦を起こすことがあります。
この場合はその部位で圧痛や運動痛が生じます。

三角骨障害とは?

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症状は足首うしろの痛み

長母指屈筋腱では内果後方の圧痛や足関節背屈で疼痛を誘発。 腱が肥厚すると弾発現象やしこりを触れることもある
症状
内果後方~アキレス腱前方の疼痛・圧痛
足首背屈時に母趾背屈強制で疼痛
足首後方のひっかかり・弾発現象
腱の肥厚(ひこう)…コリコリ感

腫脹(腫れ)や熱感は腱が深部を走行しているので、分かりにくいことが多いです。

アキレス腱の前にあるへこみ部分を押すと痛み。
内くるぶし後方にある長母趾屈筋腱(後脛骨筋腱よりも後方にある)が肥厚してコリコリ感じることも。

足関節背屈(つま先もちあげ)状態で親指を背屈強制すると痛みを生じます。
(足関節背屈状態から自力で母趾屈曲でも疼痛を誘発できる)

腱の肥厚があると足首や親指の運動でひっかかり感弾発症状(バネ指)も発生します。

障害されて肥厚した腱が腱鞘内を滑走して腱鞘を刺激し、炎症(非炎症細胞性)を引き起こす狭窄性腱鞘炎が最も多いとされています。(手指で起こるばね指と同じようなメカニズム)

「長母趾屈筋腱障害(腱炎、断裂)」池田医院より引用

※肥厚(ぶあつくなること)
炎症が長期になったり、繰り返したりすることで腱が増殖性変化を引き起こす。
※足関節後方以外の部分で生じている場合は、一致した場所に腫脹や圧痛が発生します。

原因はスポーツによることが多い

踵骨が外返ししていると長母指屈筋腱が余計に擦れやすくなる
3つの原因
つま先立ち(腱のオーバーユース)

足首の背屈強制(三角骨との摩擦)
外傷(急な伸張が加わったとき)

痛みの出る場面として圧倒的に多いのがバレエ関係を中心としたダンス。
幅跳びや高跳びなどの跳躍系の踏みきり時に発症するパターンもあります。

長母指屈筋は足関節を底屈させる筋肉のため、つま先立ちを多用する動きによるオーバーユース(使いすぎ)で炎症が生じます。

逆に足関節背屈によって生じる場合は、「三角骨」との摩擦による炎症が考えられます。
こちらはジャンプの多い競技で起きやすいです。

外傷によって生じるものは、足首が背屈状態でさらに母趾が反るように強制されたときに生じます。

回内足や扁平足も原因のひとつです。

踵が内側に倒れてしまう「オーバープロネーション」では、長母指屈筋腱も同時に緊張状態が持続します。

腱が緊張状態のときに摩擦やさらなる伸張が加わることで損傷が起きることになるのです。

回内足や扁平足は「後脛骨筋腱機能不全(PTTD)」によって生じます。

過回内(オーバープロネーション)とは?

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診断・治療と鑑別疾患

長母指屈筋腱炎は放置していると弾発母趾(バネ指)や断裂といった重度な障害に発展してしまうことがあるので注意が必要です。

診断と治療

診断は骨折の有無や三角骨を確かめる目的で画像検査を行うことが多いです。
異常がなければ徒手検査や問診にて診断が確定されます。
整形外科を受診しましょう。

治療は安静が基本です。
歩行程度でも疼痛が発生する場合には、冷却(アイシング)を行います。
アキレス腱の前にあるくぼみ部分をはさむようにすると冷却しやすいです。

スポーツで痛みが生じる場合には、痛みが出る方向への制限を行います。

足関節背屈で痛みがでるとき→足関節を背屈制限
母趾底屈で痛みがでるとき→親指を底屈制限

鑑別を要する疾患

長母指屈筋腱炎と鑑別するべき疾患

他疾患との鑑別は母趾の背屈強制で痛みがでるかどうかがポイント。
母趾を自力で底屈させることでも疼痛が誘発されるので、判断しやすいです。

後方インピンジメント

おもに三角骨が足関節にはさまることで痛みが生じます。
場合によっては距骨後突起と脛骨下端と衝突することで骨棘を生じることも。
足首の底屈でのみ疼痛が発生します。

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距骨後突起骨折

足関節底屈強制によって起きます。
後方インピンジメントのひとつです。
骨片が遊離すると三角骨の原因になることもあります。

アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎

使いすぎによる下腿三頭筋腱や周囲の滑液包の炎症。

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後脛骨筋腱炎

長母指屈筋腱の前方を通る後脛骨筋腱の炎症。
多くが内果(内くるぶし)で摩擦を起こします。

長母指屈筋腱との鑑別は母趾の底屈や背屈で痛みが出るかどうかで判断しやすいです。

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後脛骨筋腱の痛み

長趾屈筋腱炎

長母指屈筋腱と似たような走行をする長趾屈筋腱の炎症。
つま先立ちが多く、外側荷重のときに発生することがあります。

足根管症候群

足根管内で腫瘍や浮腫、過回内によって圧迫されて神経症状を起こします。

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距骨下関節症

距骨と踵骨の関節で不具合を生じるものです。
でこぼこ道や片足バランスで痛みが出ます。

まとめ

〇原因は大きく分けてふたつ。
→母趾の使いすぎによるもの
→距骨後突起・三角骨との摩擦によるもの
〇バレエに多い
〇回内足や外傷が原因になることもある
〇ひっかかりや弾発現象が起きることも
〇足首後方(内くるぶし~アキレス腱前)に痛み
〇安静と冷却を1週~3週行う。

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