滑液包炎(かつえきほうえん)「ほっとく」とどうなる?

こんにちは。ほんだ整骨院の山内健輔です。

〇肘や膝、足首などにできるこぶのようなブヨブヨしたふくらみ。
〇手首やかかと付近で関節運動といっしょに痛む、腫れ

関節や腱など組織どうしがこすれる場所には「滑液包」という袋が挟まっています。

組織どうしが摩擦で損傷するのを防いでいるんです。

滑液包炎(かつえきほうえん)は、その部分の炎症。
さまざまな要因で腫れたり、傷ついたりすることで、外側から膨らんで見えます。

無症状のこともありますが、痛みが出たり、熱を持っていたりするときには要注意です。

今回は、「滑液包炎」について紹介していきます。

滑液包はなんらかの原因で炎症が生じると、内部の滑液が増加して膨れて腫れる

滑液包炎(かつえきほうえん)の原因と治療。「ほっとく」とどうなる?

※ご注意!
このページでは「滑液包炎」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。

滑液包とは?

滑液包は腱や筋の摩擦、衝撃・圧迫を吸収するだけでなく、滑液を周囲に供給して滑りをよくする作用もある
滑液包
筋肉や腱、そのほかの組織が滑走(動く)部分で、摩擦を減少させるために存在する、滑液(粘り気のある液体)を含んだ嚢状(ふくろ)の組織。
圧迫衝撃から組織を守る役割もしている。

内壁は「滑膜」(かつまく)という線維で覆われていて、滑液を産生する役割があります。
(外側は「線維膜」(せんいまく))

滑膜には、

血管
リンパ
神経

が豊富にあり、滑液をつくりやすい(栄養が豊富)条件がそろっています。

滑液包は、自身が摩擦のクッションを務めるだけでなく、この滑液を周囲に浸潤させて摩擦を軽減させることもしています。

関節周囲や腱がこすれるところに多く存在します。

滑液包炎と滑膜嚢胞(滑膜嚢腫)の違い

関節の構造。 関節包は関節全体を覆う。滑液包は独立して存在し滑膜嚢胞は関節包と交通している。 内壁は滑膜でできていて滑液を供給している。

滑液包炎は、滑液包がなんらかの理由で損傷したもの。
名前が似ているものに「滑膜嚢胞」(かつまくのうほう)があります。

滑膜嚢胞は一部分で「関節包」(かんせつほう)とつながって(交通して)いるものを指します。(関節包は関節を覆っている袋)
滑膜は滑膜嚢胞と関節包の内壁も覆っているので、こちらも滑液を算出します。

滑膜嚢胞は、「関節包の一部」ともいえますね。

で、滑膜嚢胞の役割は滑液包とほぼ同じ

関節包と交通している滑液包のことを「滑膜嚢胞」といっていると考えていいでしょう。
つくりもほぼ同じなので、ほとんど一緒のものとして扱われています。

関節包…関節を覆い、関節液で関節運動を潤滑
滑液嚢胞…関節包と交通
滑液包…独立して存在
「滑膜」はこれらの内壁部分を指す。

混同しやすいのが「ガングリオン」。
こちらは滑膜がない部分に滑液が溜まってふくれてしまうもの。
(ガングリオンについてくわしく⇒手や足にできるしこり「ガングリオン」は放置していていい? 

ガングリオンは滑液が貯留したゼリー状のしこり

※こちらのブログでも、滑膜嚢胞滑液包炎は、ほぼ同じものとして扱っています。
例えば、ベーカー嚢腫(のうしゅ)は正確には滑膜嚢腫ですが、「滑液包炎の一種」と記載しています。

簡単にいうと関節包とつながっていたら「滑膜嚢胞」。(「滑膜嚢腫」ともいわれます)
つながっていなければ「滑液包」です。

滑液包炎や滑液嚢胞は、過剰に摩擦が起きたり、強い外力が加わることで炎症を起こします。

炎症が生じるとサイトカイン(情報を伝える物質)が血管やリンパに働きかけて、滑膜から水分を多く出します。

そうすると滑液包や滑膜嚢胞の内部が膨れて、外部からは腫瘤や腫れたようにみえます。

ガングリオンは、これらの滑液があふれ出して、濃縮されてゼリー状になったもので、多くは関節包の一部が嚢状(ふくろのように)になっています。

※サイトカイン
組織の損傷や異物の混入が起きたときに細胞から出る情報伝達物質
炎症性のものでは免疫に関わる細胞を集めたり作ったりする指令を出す。

サイトカインとは
細胞から分泌されるタンパク質であり、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称です。標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現等多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。免疫や炎症に関係した分子が多く、各種の増殖因子や増殖抑制因子があります。
━━━研究用語辞典「サイトカインとは」より引用

滑液包炎の種類と原因、症状

滑液包炎の症状
痛み
腫れ
熱感
腫瘤
原因
(原因は不明なことも多い)
オーバーユース
スポーツ・日常生活・仕事など
外傷
ねんざや打撲、骨折など
細菌感染
風邪や創傷(切り傷や擦り傷など)による細菌の混入と増殖
持病
(関節リウマチや糖尿病など)

滑液包炎はおもに急性のものと慢性のものとに分かれます。
それぞれで病態も異なるので、痛みや硬さの状態も違うので注意。
その他にも「化膿性」と「結晶性」「内疾患性」があります。

どの滑液包炎もふくらみが大きくなり関節運動を阻害したり、神経や血管を圧迫することもあるので注意が必要です。

急性滑液包炎

肘頭滑液包炎。 明らかに腫れて見えるぐらいになることもある

肘頭滑液包炎は、上腕三頭筋の使いすぎの ほかに、肘を着いて体重をかける姿勢が原因となる。

肘頭滑液包炎は上腕三頭筋の使いすぎのほかに、肘をついて体重をかける姿勢が原因になることもある。

摩擦や圧迫などの外力によって、関節包や周囲の組織が損傷。
一度の強い外力とは限らず、繰り返しによっても生じます。

炎症が起きている状態の「急性期」の意味。
原因は滑液包の周囲部分の「オーバーユース」や圧迫によるものが多いです。

多くが滑液包の中身は滑液が増えて「水腫」(すいしゅ)となっています。
ブヨブヨしていて形も変わりやすいです。

痛みがある場合とほとんど感じない場合があります。

慢性滑液包炎

外反母趾によるバニオンも滑液包が肥厚して硬くなったもの

急性期が長く続いて、さらに摩擦や圧迫などの刺激が重なると、滑液包の外壁が増殖性変化を起こして、肥厚(ひこう)します。

また、内部の滑液が貯留して水分が吸収されるとゼリー状に濃縮されることもあります。

これらの場合は、急性期よりも少しかための弾力性のある腫瘤です。
慢性滑液包炎の原因も摩擦や圧迫によるものが多いです。

症状は腫瘤のみで痛みを感じない場合が多いですが、関節周囲にできやすいので可動域制限や違和感を感じやすいです。

化膿性滑液包炎

身体のどこかで細菌感染が起こり、一部の菌が滑液包で増殖してしまったもの。
(滑膜は血流が豊富なので、血行性で感染しやすい

この場合は、滑液包の内部に(うみ)が溜まって腫れます。
痛みや熱感も発生するので、医師による排膿(膿を出すこと)が必要になることがあります。

結晶性滑液包炎

痛風で起きる針状結晶(しんじょうけっしょう)や退行性変性で起きる石灰沈着、偽痛風などの異物で生じる滑液包や滑液で生じる炎症。

内科的な処置が必要になることもあります。痛みが強いことが多いです。

内疾患性の滑液包炎

関節リウマチ糖尿病などの内疾患が原因で起きる結合組織の破壊によって、滑膜が炎症を引き起こします。

急性・慢性どちらの症状も引き起こします。

治療は、ほっとく?切除?

症状のない使いすぎによる滑液包炎の場合は安静にして経過観察でOK。内疾患に起因するものや化膿性(細菌感染)によるものはすぐに医師の指示に下ぐこと!

治療は「安静」が基本。
原因にもよりますが、急性のものでは、「冷却」「固定」や「圧迫」が必要なこともあります。

化膿性のものや結晶性のものでは、内科的な治療排膿(膿を出す)ことも必要です。

整容的な問題で穿刺(せんし)といって注射で内容物を排出したり、手術によって切除したりすることもあります。
抗炎症剤を注射することもあります。

化膿性の滑液包炎は抗生剤の投与や切開して排膿、穿刺が必要なこともある。

ただし、症状が腫瘤のみで痛みや可動域制限、違和感を伴わない場合は、そのままほっとくことで問題ないことが多いです。
※神経症状や血管の圧迫がある場合には放置しないこと!

穿刺してもほとんどが再発するため、問題が生じないのであればそのまま保存療法が選択されます。
感染症や内疾患が原因であれば、そちらを治療する!

外力や摩擦を受けやすいのが原因であれば、その対処も行いましょう。
そのまま放置して問題なければ、何か月もかかることもありますが、いつの間にか腫瘤が消失している例もあります。

まとめ

肩関節インピンジメントでは肩峰下滑液包が肩峰と上腕骨大結節の間に挟まれることで炎症を生じ、肥厚して発症する。

  1. 外力によるものは、摩擦や圧迫、外傷によって生じる。
  2. 化膿性・結晶性・内疾患性のものはそちらの治療も必要。
  3. 外力によるものは安静にして保存療法が選択される。
  4. 増加した滑液はいずれ吸収される。

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