こんにちは。ほんだ整骨院の山内です。
交通事故に多い頚部のむち打ち症(ムチウチ症)。
追突事故によるものが多いですが、頭部の重さによって衝撃や遠心力、急激な加減速で首に負荷がかかることで発症します。
交通事故だけじゃなくって、ラグビーなどのコンタクトスポーツ、スキーなどのウィンタースポーツ、ジェットコースターなどの乗り物でも起きることがある身近なケガです。
症状は頚部(首)だけに限らず、全身に波及すること、日数が経過してから症状が出始めることもあるので注意が必要になります。
今回は「むち打ち症」について紹介していきます。
『むち打ち症状は時間が経ってから現れることもあるので要注意!』
このページでは「むち打ち症」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。
むち打ち症(ムチウチ症)とは?
頚部の外傷のうち、骨組織や脊髄に損傷のないものを総称していうことが多い。
筋肉・靱帯・関節包・その他の結合組織が可動域を超える動きによって損傷する。
衝撃や損傷による周囲の筋肉が過度に緊張することでいろいろな症状を発することが多い。
ヒトの頭部の重さはだいたい、体重の10%といわれています。
これを支えているのは、7つの頚椎とその周囲の筋肉のみ。
身体に強い衝撃や遠心力によって、重い頭部には急激な加速力や減速が加わります。
・・・頭部は「慣性の法則」(運動を続けようとする力)によって、大きく振られることに。
・・・これによって頚部の構成組織がなんらかの障害・損傷をうけます。
「むち打ち症」といわれるものは、おもに軟部組織(骨以外)の損傷とそれに付随する症状の総称で使われています。
(レントゲン上では「骨に異常なし」といわれたもの)
実はこの「むち打ち症」は正式な診断名ではないのです。
いわゆる“むち打ち症”は、追突や衝突などの交通事故によってヘッドレストが整備されていない時代に首がむちのようにしなったために起こった頚部外傷の局所症状の総称です。近年ヘッドレストが標準装備されたことで “むち打ち症”と呼ばれることは劇的に減少したにも関わらず、医学的傷病名と混同して使用されることがあります。受傷原因や外傷程度により症状はさまざまで、治療方法や期間は多岐にわたります。医学的な傷病名ではないので、
外傷性頚部症候群(頚椎捻挫・頚部挫傷)、神経根症(頚椎椎間板ヘルニア・頚椎症性神経根症)、脊髄損傷など医師の専門的診断を受けることが必要です。 したがって、交通事故後にいわゆる“むち打ち症”が疑われる場合は神経学的所見を含む診察所見および病状によってレントゲン撮影やMRIなどの精査が可能であることから、整形外科医の診察を受けることをお勧めします。日本整形外科学会「むち打ち症」より引用
具体的には、
頚部神経根症(けいぶしんけいこんしょう)
頚椎捻挫(けいついねんざ)
頚部挫傷(けいぶざしょう)
などの傷病名がつけられます。
原因は交通事故の強い衝撃によるもののほか、スポーツや遊園地の乗り物でも起きることがあります。
交通事故(追突事故や衝突によるもの)
コンタクトスポーツ(ラグビーやレスリングなど)
ウィンタースポーツ(スキーやスノーボード、スキーなど)
高所からの転落
過伸展
↓
過屈曲
このあともう一度、伸展方向に振られることもある。
※ヘッドレストが適切な位置にあることで「過伸展」のリスクが減少されます。
※側方からの衝突によって、むち打ち症状は起きることもあります。
むち打ち症5つの型プラス1
「むち打ち症」は、病態によって5つの型に分けられています。
もうひとつ「脳脊髄液減少症」も加えて全部で6つ紹介します。
- 頚椎捻挫・頚部挫傷
- 神経根症状(頚部神経根症)
- バレリーウー症候群
- 神経根+バレリーウー混合型
- 脊髄症状型
- 脳脊髄液減少症
むち打ち症は、頭部が揺さぶられることで首が大きく「しなる」。
「しなる」ことで首の組織がダメージを受けます。
直接そのダメージによって障害を受ける部分、衝撃後の筋緊張による2次的な障害による症状などで「型」が分けられています。
①頚椎捻挫・頚部挫傷
可動域を超える過伸展・過屈曲によって軟部組織が損傷したもの。
筋肉・靱帯・関節包に損傷がある。
血腫(内出血)や腫れがなくても損傷が起きていることがあるので、外部からは判断しにくい。
②神経根症状(頚部神経根症)
椎間関節や椎体が衝撃を受けることで、周囲の筋肉が緊張を起こすことで、脊髄から出る神経の根元が圧迫されたり、異常に興奮したりする。
上肢(腕~手)へのしびれや放散痛(広がるような痛み)を生じることがある。
指や手、腕への力が入りにくくなったり、感覚障害も症状のひとつ。
単に「根症状型」(こんしょうじょうがた)と呼ばれることもある。
③バレリーウー症候群
下部頚椎の側方にある「星状神経節」(せいじょうしんけいせつ)に異常がでている状態。
星状神経節は自律神経のうち「交感神経」が集まっている部分です。
むち打ち症の多くの自律神経症状は、星状神経節からの交感神経が異常興奮(過剰に反応)していると考えられる。
「バレリュー症候群」や「バレルー症候群」と呼ばれることもある。(フランス人のBarreとLieouが発表した!)
症状があまり強い場合には、麻酔科の医師の治療が必要になる場合もある。
④神経根+バレリーウー混合型
神経根型とバレリーウー症候群症状の両方があるもの。
腕へと向かう神経の根元(脊髄から出てくるところ)と星状神経節は近い位置にあるため、周囲の組織の状態で同時に圧迫を受けることがある。
⑤脊髄症状型
神経根ではなく、脊髄のほうに障害がでるもの。
事故による衝撃によるものと、もともと頚椎に疾患があって、事故の衝撃によって発症するものとがある。
脊柱管狭窄症なども原因のひとつになる場合がある。
身体の機能の麻痺などが生じる恐れがあるので疑われる場合は、早めに専門の病院を受診したい。
「脊髄損傷」(せきずいそんしょう)なので、正確には「むち打ち症」ではなく、完全な安静が必要になる。
⑥脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)
低髄液圧症(ていずいえきあつしょう)ともいわれる。
むち打ち症とは別に扱われるが、頚部外傷によっても誘発される可能性がある。
脊髄を包囲している硬膜にも損傷が起きることで、内部の脳脊髄液がわずかずつ漏れ出る状態。
原因の分からない頭痛などの症状が続くことで見つかることがある。
特別な検査でないと判明しないことが多い。
~交通事故後のむちうち損傷と脳脊髄液減少症との関係について~
むちうち損傷後の症状は非常に多彩であり、また様々な因子(元々の頚椎の構造・加齢変化、心身のストレス、被害者意識など)により症状が増悪します。むちうち損傷は、別名を外傷性頸部症候群といい、脳脊髄液減少症と非常に症状が類似しており鑑別を要します。一番の鑑別点は、画像所見を認めない点です(脳脊髄液減少症は画像で診断可能)。以前、むちうち損傷による症状が、全て脳脊髄液減少症に起因するかのような報道がなされ、誤解を招いておりましたが、脳脊髄液減少症は、むちうち損傷で起こりうる合併症の一部であり、全例に起こるわけではありません。
多様なむち打ち症状
頚部には身体にとって重要な組織が多く通っています。
頚椎(背骨)
気管
食道
太い動脈
静脈とリンパ管・リンパ節
甲状腺(内分泌器官)
自律神経の神経節(神経の分岐点)
頭部が揺さぶられることによって起きるむち打ち症で、いろいろな症状がでるのはこれらと関わりがあります。
これらの症状は、むち打ちによるものに加えて、日々の生活においても負担が大きい部位です。
むち打ち症と重なることで症状が長く続いたり、ひどくなったりすることがあります。
首についての雑学!
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靱帯や筋肉、関節包に損傷がある場合の症状
- 動かすと痛い・動かせない
- じっとしていると深部に痛み
- 首・肩・背中(腰)まわりの痛み
神経根の障害による症状
- 首の深部痛・鈍痛
- 肩から手にかけての痛み・しびれ
- 知覚障害
- 力が入りにくい
自律神経の神経節による症状
- 頭痛
- しびれ
- めまい
- 微熱
- 倦怠感
- 発汗
- 脱力感
- 耳鳴り
- 筋肉の硬直
- 眼精疲労・目のかすみ
※この他にも、まれにではあるが、頚椎の前屈によって甲状腺の機能に問題が生じることもある。
脊髄による症状
神経根による障害と違って両側に出ることが特徴ですが、片側だけの場合もあるので注意が必要。
- 両手や両足のしびれ・脱力感
- 細かい動きができない
- 両手・両足の感覚麻痺
- 排尿・排泄障害
さらにさまざまな症状が現れることがある。
時間が経過してから出現することも
現れる症状がさまざまなのが特徴ですが、むち打ち症になった直後ではなく、時間が経過してから症状が出ることもあります。
直後は興奮状態で感じていない場合と徐々に炎症が強くなってくることで生じてくる場合です。
とくに神経が関係する症状では、首を支える支持組織の損傷によって、周囲の筋肉が強く緊張状態になるのが数時間後。
その筋緊張によって神経圧迫が起きたり、神経興奮が強くなることでいろいろな症状が出てきます。
必ず医療機関を受診する!
むち打ち症が発生する動きで発生する怖いケガは、脊髄損傷と頚椎の損傷。
頚椎損傷によって脊髄損傷が起きることもあります。
もうひとつは、頭部が強く揺さぶられるので、脳震盪(のうしんとう)や太い血管の損傷。
このどれもが「絶対安静」と「早い処置」が必要です。
軽い衝撃でも予期しない不意討ちだと大きなケガにつながる恐れがあります。
(衝撃に備えることができると周囲の筋肉が保護してくれる。)
また、前述しましたが、時間が経過してから症状が出ることもあるんです。
必ず医療機関を受診すること!
自分で「たいしたことない」と思っても必ず早期に医療機関を受診しましょう。
重大な損傷がないことを確認するためでもあります。
重大な損傷(骨折・脊損)が否定されるまでは、
必ず安静にすること!
頚部周囲の筋緊張をゆるめるのは、整骨院(接骨院)や鍼灸院でも可能ですが、画像による診断は医師でないとできません。
むち打ちによる症状は長期にわたったり、後遺症になったりすることもあるため、定期的に医師の診察も必要になります。
※とくに交通事故によるむち打ち症の場合は、治療費や保証の問題で、治療には「医学的根拠」が必要です。
医療機関を受診するときに伝えることは?
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治療には期間がかかることも!
むち打ち症状は3週~数週間で消失することも多いですが、なかには数か月症状が長引いてしまう場合もあります。
とくに残りやすいのが首肩、背中のコリといった筋緊張の症状と自律神経による症状です。
治療は、
- 炎症期
- 慢性期~回復期
に分けて行います。
炎症期
ケガ直後~2週ごろの時期です。
損傷による炎症を抑えることを目的とします。
受傷の直後、明らかな熱感があれば冷却(アイシング)
なければ、冷却も温熱もしないほうが無難です。
炎症が強いうちは安静が基本です。
医療機関(病院)に行った場合は医師の指示に従いましょう。
痛みが強い場合は、頚部コルセット(頚椎カラー)が処方されます。
頚部の固定は2~3週ほど。
慢性期~回復期
強い炎症の痛みが消えてくる時期。
神経症状や自律神経の不調が目立つようになってきます。
また、頚部周囲の背部や肩、腰部にまで筋緊張が出てくることがあります。
↓
頭部周りに波及
↓
緊張型頭痛
↓
末梢神経の根元や自律神経の神経節を圧迫
↓
しびれや放散痛、不定愁訴(ふていしゅうそ)
この時期は積極的に安静にするよりも、動かせる範囲で動かしていくことが大切な時期です。
徐々に日常の生活に戻していきます。
筋肉の緊張を除去することが症状の改善につながります。
痛みが強くならない範囲で少しずつ頚部~背部~上肢の筋肉をほぐしていきましょう。
手技治療・・・手や指でほぐす
投薬・・・筋肉をゆるめたり、痛みをコントロール
自律神経の症状が強いなら、麻酔科やペインクリニック、神経科の受診も検討すべきです。
周囲の理解が必要不可欠
むち打ち症は、頚部外傷のうちの画像所見で異常が認められないものがほとんどです。
さらに症状は「自覚症状」が主。
自分しか感じられない症状。
痛みや苦痛、だるさなど、他の人からはわからないもの。
対して「他覚所見」(たかくしょけん)は、体温や血圧、画像、可動域など他人からもわかりやすい症状のこと。
しかも、むち打ち症状に多い、首肩こりや不定愁訴は日常生活でも発生するので、
周囲の理解が得られにくい!
という特徴があります。
本当は痛みによって、仕事や家事がつらいのに言い出せずに無理してしまう人も数多くいらっしゃいます。
ケガによる痛み、思うように動けない苦痛、さらに周囲に理解してもらえない精神的苦痛。
炎症期を過ぎると劇的によくなるステージがないので、「治らないかも」という将来に対する不安もあります。
・・・なので、ご家族や周囲の人々がむち打ち症状を理解して、本人をサポートしてあげる必要があるんです。
「苦痛がとれるまでが治療」と考えることが重要です。
頚肋(けいろく)ってどこの骨?
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まとめ
- 頭部が振られることによって生じる頚部の痛み
- 交通事故のほかスポーツや転落でも起きる
- 頚椎損傷や脊髄損傷の可能性を除去するためにも医療機関を受診する
- 回復するまでに長期間かかる場合もある
- 神経根や自律神経が障害されることもある
- 症状は「自覚症状」が主
- 炎症期を過ぎたら頚部周囲の筋緊張を除去する治療も必要
- 周囲の人が「むち打ち症」について理解する必要がある
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