ひざ下、内側(やや後ろ)の痛み「鵞足炎」。自分でできる対策は?

こんにちは。ほんだ整骨院の山内健輔です。

スポーツをしている人、ランニングをする人、登山をしている人の中には、ひざ下の内側部分が痛くなったことがある方もいるかもしれません。

ひざ下の内側部分のふくらみ部分は、「鵞足部」(がそくぶ)といわれ、大腿部の強い筋肉が付着しています。

筋肉の腱と骨との間には「滑液包」(かつえきほう)という摩擦や衝撃をやわらげるためのベアリングのような役割をする袋のようなものがあります。

膝の屈伸や筋肉の収縮を繰り返すことによって、滑液包や周辺組織に炎症を生じるスポーツ障害(オーバーユース)が、

鵞足炎
(がそくえん)

今回の記事では、鵞足炎の概要と自分でできる対処法について紹介していきます。

鵞足炎は脛骨内側顆に停止する筋肉付着部の炎症。 滑液包への繰り返しの刺激によって発症する

ひざ下、内側(やや後ろ)の痛み「鵞足炎」。自分でできる対策は?

※ご注意!
このページでは「鵞足炎」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。

鵞足(がそく)ってどこ?

鵞足とは薄筋・縫工筋・半腱様筋が付着する脛骨内側顆の側面部にあるふくらみ

ひざの下側のふくらみを「脛骨内側顆」(けいこつないそくか)といいます。

この部分内側面から後方にかけての部分が「鵞足」(がそく)。
ガチョウの足のように筋肉が付着していることから名づけられました。

鵞足に付着する筋肉

  1. 薄筋(はっきん)
  2. 半腱様筋(はんけんようきん)
  3. 縫工筋(ほうこうきん)

薄筋(はっきん)は内転筋のひとつ。
半腱様筋(はんけんようきん)はハムストリングスのひとつ。
縫工筋(ほうこうきん)は大腿前面を斜めに走る筋肉。

鵞足部に停止する薄筋・縫工筋・半腱様筋は股関節と膝関節をまたぐ二関節筋

どの筋肉も股関節と膝関節をまたぐ「二関節筋」(にかんせつきん)。
作用はそれぞれ異なりますが、股関節と膝が連動する運動で、繰り返し牽引力が加わることになります。

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筋の付着部炎と鵞足部滑液包炎の違い

骨と腱がこすれないように存在する鵞足部滑液包が繰り返し圧迫・摩擦を受けて鵞足炎が発症する

筋肉は骨に付着する近くでは「腱」(けん)という硬い組織になっています。
この腱がほかの筋や腱、骨と擦れて損傷しないようにあるのが「滑液包」(かつえきほう)です。

滑液包の内側にある滑膜(かつまく)からは、滑液(かつえき)という潤滑液がしみ出ています。

膝周りには多くの腱が存在し、滑液包も多い

滑液が摩擦を減少させて腱が擦り切れるのを防いでいるほか、滑液包自体も腱と骨の間で緩衝の役割をもっています。

鵞足にある滑液包は、その名も

鵞足滑液包
(がそくかつえきほう)

腱の付着部(停止部)では、よく裂離骨折(剥離骨折)を起こしますが、鵞足部では骨が剥離する前に、この鵞足滑液包が炎症を起こして痛みを発生させます。

これが「鵞足炎」(がそくえん)。

もちろん、我慢しすぎて悪化させると「付着部炎」に移行する可能性があるんです。

鵞足には、薄筋・半腱様筋・縫工筋が停止しているほか、すぐ近くには、内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)や半膜様筋(はんまくようきん)も停止しています。
(筋や靱帯の遠位付着部を「停止部」とよぶ)

鵞足部のすぐ近くには、内側側副靱帯や半膜様筋が停止。

靱帯や腱組織が入り組んでいるということは、どんな運動でもどこかしらの腱が引っ張られているってこと。

とくにスポーツや労働での繰り返される動きには要注意です。

鵞足炎の症状

鵞足炎は筋肉の収縮と伸張が繰り返されることで、付着部に刺激が加わり炎症を起こすのが鵞足炎

  • 腫脹(腫れ)
  • 熱感
  • 圧痛
  • 膝屈伸時痛

腫脹や熱感は、わかりにくいことが多いです。
薄筋や縫工筋、ハムストリングスを伸張させると痛みを誘発できます。

動作痛は、階段昇降、とくに下りで出やすいのも特徴のひとつです。

運動始め 痛み↗

身体が温まってくる 痛み↘

疲れてくる 痛み↗

鵞足炎になりやすい原因は?

鵞足炎はジャンプやターン、長時間走り回るなど大腿部や股関節、膝関節を酷使するスポーツに多い。

原因とリスク要因

使いすぎ(オーバーユース)
不適切なトレーニング(量・強度・頻度)
運動フォーム
直接的な打撲(直達外力)
柔軟性の低下
体重増加
変形性膝関節症
回内足(過回内)
X脚(外反膝)
疲労の蓄積

鵞足に停止する筋(薄筋・半腱様筋・縫工筋)が過緊張することによって生じます。
膝関節まわりだけでなく、股関節まわりの硬さも問題です。

スポーツで多いのは、サッカー、ラグビー・バスケットボールなど膝関節の屈伸だけでなく、股関節の動きも多いスポーツ。
ジャンプを繰り返す競技(バレーボールなど)でも好発します。

男性や柔軟性の低い人では、ランニングや登山でも生じることもあります。

また、回内足X脚では、日常的に鵞足部が引っ張られている状態になるので、痛みが発症しやすいです。

X脚と回内足は鵞足炎になりやすい要因のひとつ

もうひとつ、意外に多いのが直達外力(ちょくたつがいりょく)による損傷。コンタクトスポーツで起きやすいです。

自分で治す?! ストレッチが有効

ニーイントゥーアウトは鵞足炎になりやすい走り方のひとつ。フォームを見直すのも自分でできる鵞足炎の治療のひとつ

使いすぎによるスポーツ障害なので、基本的には「使わないこと」が優先される治療です。

ですが、鵞足炎になった原因をそのままにしておくと、再発しやすい疾患でもあります。

ある程度痛みがひいてきたら、自分でも再発しないための対策が必要なんです。
再発しやすいですが、予後は悪くありません。

鑑別しておくべき疾患

鵞足炎と鑑別しておきたいのが、脛骨内顆疲労骨折・変形性膝関節症、オスグッドシュラッター病、内側側副靱帯損傷、内側半月損傷。

まずは、除外しておきたい疾患

脛骨の疲労骨折
内側側副靱帯損傷(MCL損傷)
内側半月損傷(MM損傷)
変形性関節症による骨棘
オスグッドシュラッター病

ここでいちばん注意が必要なのは、疲労骨折
発生機転が似ているのと発生部位によっては、判断がつきにくい場合があるからです。

ご自身で対策をとる前に、必ず整形外科にて正しい診断を受けておく必要があります。

レントゲンでは鵞足自体の軟部陰影の増大、超音波では鵞足の腱の周囲に低エコーの腫脹、MRI では鵞足部の輝度上昇(白く見える)が認められます。
ただ、慢性期(症状が長期化している時期)で腫れが著明でなくなると、これらの変化がわかりにくくなります。
そのため鵞足炎と同様に内側半月板損傷、脛骨内顆疲労骨折、変形性膝関節症などが膝の内側に類似した痛みを引き起こします。
鵞足炎と類似した疾患と区別するため、鑑別診断が重要となります。
イノルト整形外科『鵞足炎の病態と治療についての解説』より引用

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鵞足炎の治療

手術になるケースは、ほとんどないといっていいでしょう。
なので、保存治療がおもな治療方法です。

整形外科での治療
消炎剤
腱周囲にヒアルロン酸注射
ステロイド注射
自分でできる対策
テーピング
サポーター
ストレッチ
安静&冷却(急性期のみ)

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自分でできる鵞足炎の再発予防対策

一度、痛みが治まっても再発しやすいのが鵞足炎。
いちばん重要なのが、大腿部前面・内転筋・ハムストリングスのストレッチ。

薄筋・縫工筋・半腱様筋を中心に柔軟性を保つことが大事です。
また、運動前には、入念にウォーミングアップを行い、運動後にもクールダウンを行いましょう。

日ごろから股関節・膝関節まわりの柔軟性も保っておきたいところですね。

①縫工筋のストレッチ

縫工筋のストレッチは座ってもうつぶせでも膝を曲げた状態で股関節を内旋させる。

座ってやっても、うつぶせで寝てやってもOK。
膝関節屈曲位で股関節を内旋させる(足首を外側にもっていく!)。

②内転筋群のストレッチ

内転筋群のストレッチでは、大腿部内側を伸ばすようにすれば、どんな姿勢でやってもOK

薄筋のみを狙ってストレッチするのは難しく、内転筋群全体でストレッチして柔軟性を高めておきたいですね。

③ハムストリングスのストレッチ

大腿こうぶのストレッチもいろんな姿勢でできる。基本的には膝をのばしたまま身体を前屈させていく

基本的には膝を伸ばした状態で、身体を前屈させていく。
片方ずつやると力が加わりやすいのでおすすめ。

座位開脚で身体を前に倒していくストレッチは、ハムストリングスと内転筋群を同時に伸張できるので鵞足炎にも効果的。

鵞足炎まとめ

  • 鵞足部は薄筋・半腱様筋・縫工筋の付着部。
  • 鵞足部滑液包がオーバーユースによって炎症を起こす
  • 股関節・膝関節まわりのストレッチが重要
  • 疲労骨折や変形性関節症などと鑑別が必要
  • 基本的に鵞足の筋肉の過緊張が原因

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