股関節の音が鳴る!「弾発股」(ばね股)はどうして起きる?

こんにちは。ほんだ整骨院の山内健輔です。

歩いたり、走ったり、身体の向きを変えたりするときに、股関節あたりに軽い衝撃と「音」が鳴るようなことはありませんか?

音が鳴らなくても「ひっかかり感」やこすれたような感じが出ることもあります。

弾発股(だんぱつこ)

といわれる現象です。

ばね股」や「クリック股」ともいわれます。

痛みを感じることは少ないものの、放置しておくと強い痛みに進行することもあるんです。

今回の記事では、「弾発股」について詳しく紹介していきます。

弾発股の種類と原因、対策について

股関節の音が鳴る!「弾発股」(ばね股)はどうして起きる?

※ご注意!
このページでは「弾発股」(ばね股)について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。

弾発股「股関節で音が鳴る」

弾発股はばね股、すなっピングヒップともいわれ、外側型・内側型・後方型・関節内型に分けられる

正確には股関節ではない部分もありますが、ばね股クリック股ともよばれています。

英語では、「snappinng hip」スナッピングヒップ)ともいわれています。(最後にsyndromeをつけて症候群とも)

パキッギシギシゴクッなどの音と同時にこすれた感じやひっかかりがとれたような感覚が生じます。

ひと口に「弾発股」といっても詳しくみてみると、原因になる場所によって、4つに分類されます。

  1. 外側型
  2. 内側型
  3. 後方型
  4. 関節内型

最も多いのが外側型。次いで出やすいのが内側型。
後方型は少ない。
関節内型は、放置すると進行してしまう場合があります。

※後方型は数が少ないのと、関節内型は「そもそも弾発股ではない」との意見から、外側型・内側型の2種類という説もあります。

外側型は大転子部分

弾発股の¥外側型では、股関節の屈伸で腸脛靭帯が大転子と擦れる。腱が弾かれたときに音が鳴ると考えられている

殿部にある大腿骨の突起、「大転子」(だいてんし)部分にひっかかり弾発現象スナップ音がでるもの。

正確には股関節ではありません。
大腿骨の大転子部分は外側に大きく突出するため、その外側にある、大殿筋(だいでんきん)や大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)からつながる腸脛靭帯」(ちょうけいじんたい)と接触しやすいです。

また大転子には、中殿筋や小殿筋、さらに深層外旋六筋(しんそうがいせんろっきん)の一部が停止(付着)しています。

大転子に付着する筋肉
外側━中殿筋・外側広筋
前面━小殿筋
上縁━梨状筋
下部━大腿方形筋
転子窩━内閉鎖筋・外閉鎖筋・上双子筋・下双子筋

この大転子に付着する筋肉のうち、中殿筋外側広筋(大腿四頭筋の一部)は、大転子外側に付着しています。

これらの筋・腱・大転子・滑液包が接触して、こすれることで弾発現象を引き起こすと推測されています。

殿部には深層外旋六筋と大殿筋・中殿筋・小殿筋があり、おもに股関節を安定化させている

深層外旋六筋(しんそうがいせんろっきん)
梨状筋・内閉鎖筋・外閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋
股関節を外旋させる筋肉で、殿部の深層にある。

大腿筋膜張筋とは?

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内側型は腸腰筋の腱がこすれる!

 

 

弾発股の内側型では、腸恥隆起、大腿骨頭部。鼡径靱帯と腸腰筋の腱が接触することで起きる

内側型の弾発股では「鼠径部」(そけいぶ;足のつけ根)の下部あたりに痛みや弾発感を感じます。

腰椎の前側から出る「大腰筋」(だいようきん)、腸骨の前側から出る「腸骨筋」(ちょうこつきん)が合わさって「腸腰筋」(ちょうようきん)。

腸腰筋は腱に移行して、大腿骨の内側にある「小転子」(しょうてんし)に停止します。

この腸腰筋の腱が腸恥隆起(ちょうちりゅうき)・大腿骨頭・小転子のいずれかと接触することで弾発現象を引き起こします。

この内側型も正確には股関節の関節包外で生じています。
弾発現象にはなりにくいですが、腸腰筋の腱が鼡径靱帯(そけいじんたい)と接触して摩擦を引き起こすこともあります。

腸恥隆起(ちょうちりゅうき)
小腰筋の停止部。
腸骨(ちょうこつ)と恥骨(ちこつ)の境目にある骨が小さく隆起した部分のこと。

外側型に比べると少ないですが、サッカー選手に多く、外転・外旋位で、屈曲から伸展へと動かした(動かされた)時に弾発現象や疼痛を生じます。

弾発股の内側型は、股関節外転外旋位(膝を外に向けて開いた状態)で伸展方向に動いた(動かされた)ときに生じやすい。

股関節の動き
外転・内転━足を開く・閉じる動き
屈曲・伸展━膝を前方・後方に動かす
外旋・内旋━膝のお皿を外向き・内向き
関連記事;運動面と運動軸について詳しく知りたい人⇒運動面と運動軸

参考
腸腰筋スナッピング
弾発股のうち内側型が腸腰筋スナッピングと呼ばれています。腸腰筋腱が股関節外旋外転するときに股関節前面の骨突出部で弾発します。診断は股関節を屈曲し外転外旋を行い下肢を伸展するときに股部内側にスナッピングが誘発されます。
炎症が強い場合はMRIで画像所見を認めます。治療は原則としてほとんどが保存的に行います。痛み止め、股関節前面のストレッチ、体幹機能の調整などを行います。改善しない場合は鏡視下に腸腰筋腱を切離しますがパフォーマンスが落ちるので熟慮する必要があります。

池田医院ホームページより引用

後方型は坐骨結節で弾発現象

後方型の弾発股では、坐骨結節部でハムストリングスの腱が弾発現象を起こす

後方型での弾発現象は少ないです。
場所は、坐骨結節(ざこつけっせつ)

殿部の下にある骨の部分。
太ももの後面にあるハムストリングスといわれる筋肉の起始部。
他にも多くの筋や靱帯が付着しています。

坐骨結節に付着する筋
大腿二頭筋長頭・半腱様筋・半膜様筋・大内転筋の一部・下双子筋・大腿方形筋・浅会陰横筋・仙棘靱帯

解剖学的に坐骨結節に付着する筋・靱帯には下記のものがある.遠位方向には大腿二頭筋長頭,半腱様筋,半膜様筋,大内転筋が,外側方向には下双子筋,大腿方形筋が,近位方向には強靱な仙結節靱帯が,また内側方向には浅会陰横筋が付着している
『徒手整復不能であった坐骨結節裂離骨折の1例』芝山浩樹  井口浩一  八幡直志 より引用

股関節の運動によって、これらの腱や靱帯の走行も変化します。
このときに摩擦を起こして弾発現象を引き起こすのを、後方型と呼んでいます。

〈参考〉

後方型弾発股 股関節の後ろ
ハムストリング腱が関与することによって股関節の後ろに弾発が起こることがあります。
この腱は、坐骨結節と呼ばれる骨に付着します。坐骨結節を横切って ハムストリングの腱が移動すると、腱が引っかかり、臀部にパチンという感覚を引き起こします。これは、ヒップをスナップする他の弾発股(前方型や外側型)ほど一般的ではありません

『弾発股  4つのタイプ 内側型 外側型 後方型 関節内型』スポーツ整形外科医S. Uのブログ Sports Physician S.U Blogより引用

関節内型

 

関節包内部での構成組織での弾発現象のこと。
股関節の内部には、

  • 関節軟骨(骨軟骨)
  • 関節唇(かんせつしん)
  • 大腿骨頭靱帯(だいたいこっとうじんたい)関節内型の弾発股では、関節軟骨・大腿骨頭靱帯・関節唇の損傷が弾発現象を誘発する

が存在します。

外傷や使いすぎによって、構成組織に不具合が生じることで、関節軟骨がすり減ります。

関節軟骨(関節面)の減少は、大腿骨頭靱帯や関節唇と弾発現象を生じさせる原因にもなります。

関節軟骨(関節面)のすり減りは、関節唇や大腿骨頭靱帯との弾発現象を引き起こす

関節内型の弾発股では、変形性股関節症関節遊離体(軟骨の剥がれ落ちたもの)、大腿骨頭すべり症大腿骨頭壊死など重篤な疾患につながる恐れがあります。

関節唇関節唇は大腿骨頭を外れないようにさせる・関節内を適合化させる役割
股関節の関節窩と大腿骨頭のはまり具合を適合化させる線維軟骨でできた組織。
動きを滑らかにすると同時に外れにくくさせている。
大腿骨頭靱帯(だいたいこっとうじんたい)大腿骨頭靱帯の内部には大腿骨頭靱帯動脈があり、大腿骨頭部を栄養している
股関節内にある強靭な靱帯で、大腿骨頭部と寛骨臼(骨盤側)をつないでいる。
内部に「大腿骨頭靱帯動脈」を通し、骨頭部への酸素・栄養供給も担っている。

ばね股の症状と原因

弾発股で弾発現象を起こす場所。鼡径靱帯・大腿骨頭前部・腸恥隆起・小転子・大転子・坐骨結節

弾発股やばね股は、障害そのものの名前を指すこともあれば、弾発現象という「症状」自体を指すこともあります。

症状


衝撃・ひっかかり感
疼痛
特定の動きでのみ再現

ポキッとかギシッとかゴリッとか、人によって音が違います。
他者が聞こえるほどの音が出ることもあります。

腱や靱帯が骨と接触して弾くため、ひっかかり感から軽い衝撃を感じる人もいます。

基本的には疼痛を伴わないことも多いのですが、弾発現象時に一時的に痛みを感じることがあります。

原因

弾発股を引き起こす原因

  1. 筋バランス↓
  2. 靱帯・腱の損傷や肥厚
  3. 骨形成の異常(臼蓋形成不全含む)
  4. 使いすぎ・疲労・筋量の増減

弾発股を引き起こす部位には、それぞれ「滑液包」があります。
滑液包は腱と他組織の摩擦を防ぐ役割をしています。

この滑液包が腫脹・腫瘤化することでも弾発股は起きます。

腸腰筋滑液包(腸恥滑液包)
大転子滑液包
坐骨臀部滑液包
中殿筋滑液包
など

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①筋バランスの低下

下肢の偏った使い方(フォームや地面の傾き)によって、同じ筋肉や腱を酷使することで筋疲労や筋緊張が強くなります。

道路には排水するため多少傾きがあります。
トラック競技では同じ方向に周回。
スポーツの練習では同じ動きを繰り返します。

ヒトの動きにもクセがあって、どうしても左右均等にできるわけではありません。

バランスが崩れることで、骨盤が傾き、弾発股を誘発してしまうことがあります。

②靱帯・腱の損傷や肥厚

弾発股を引き起こす腱や靱帯といった結合組織は、繰り返しの摩擦によって損傷します。

損傷後は再生するのですが、その過程で増殖性変化や肉芽化によって肥厚してしまうことがあります。

肥厚すると余計に弾発しやすくなります。

③骨形成の異常

誰もが同じ骨の形をしているわけではありません。
左右で形状が違うこともしばしば。

異常と書きましたが、正確には異常ではなく、個人差・左右差といえるでしょう。

弾発股を起こしやすい場所は、筋や腱の付着部になっています。

ってことは、日常的に牽引力が働いているってこと。

骨の形も繰り返し牽引されることで、わずかですが変化します。

スポーツ選手が激しい練習を繰り返すことで弾発股も起きやすくなるといえるでしょう。

また、もともと「臼蓋形成不全」(きゅうがいけいせいふぜん)といって、骨盤側の関節窩(くぼみ)が浅い人もいます。

そういう状態では、大転子と腸脛靱帯も干渉しやすいです。
また、腸腰筋腱の走行も大腿骨頭部と干渉しやすくなります。

④使いすぎ・疲労・筋力低下もしくは増加

使いすぎや筋疲労によって、筋肉が緊張しっぱなしになることで、骨とこすれてしまうもの。

筋力の低下では、筋肉が疲労しやすくなります。
結果、弾発股の原因となる腱の緊張が強くなります。

逆に筋肉が強くなりすぎると、筋の収縮力で腱へ張力がかかりやすくなります。

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発症しやすい人

バレエダンサーやサッカー選手、10代のスポーツ選手、ランナーはとくに弾発股に注意する

  1. 10代スポーツ選手
  2. バレエ
  3. サッカー
  4. ランナー(道路やトラック)

10代は骨の成長と筋の発達バランスが乱れやすい時期。

バレエやダンスは股関節の運動が激しく、正常可動域を超えた動きも要求されます。

サッカーでは、股関節が外転+外旋位での屈伸が多いうえに、その状態で外力が加わることも多い競技。

同じ方向や左右に傾いた道路を走るランナーにも弾発股は多いです。

「弾発股は自分で治せる?」治療と予防

大腿筋膜張筋のストレッチ。足を前後に開いて、後ろ脚を反対側へ伸ばしていく。何かに掴まりながらストレッチ

関節内型を除く、外側型・内側型・後方型は、ほぼ保存療法(手術をしない治療)で対応されます。

難治性のものや日常生活に支障がでるほどのものは、観血的に処置(手術)することもあります。

ただし、股関節の他の疾患を除外しておくためにも、一度は整形外科を受診しましょう。

☆除外しておく必要がある股関節疾患

  • 鼡径ヘルニア・大腿ヘルニア
  • 化膿性股関節炎
  • 変形性股関節症
  • 大腿骨頭すべり症
  • グローインペイン症候群
  • 関節軟骨損傷
  • 外傷(骨折・脱臼)

筋肉のバランスや緊張による外側型・内側型・後方型は、自分でも対処が可能です。

☆弾発股に自分で対処する!

痛みがでている間は、運動中止
ストレッチマッサージで原因になる筋肉の柔軟性をとり戻しましょう。

外側型→大腿筋膜張筋や大殿筋
内側型→腸腰筋
後方型→ハムストリングス

大腿筋膜張筋のストレッチ。側臥位で上側の足を前方でクロスさせて足裏を突く。 さらに身体を側屈させることで大腿筋膜張筋を伸ばす。

ハムストリングス・ふくらはぎのストレッチ

「弾発股」まとめ

  • 外側型大転子と腸脛靭帯が原因
  • 内側型股関節周囲の骨隆起と腸腰筋腱が原因
  • 後方型坐骨結節とハムストリングス
  • 関節内型関節包内組織の問題。
  • 基本的に疼痛はないことが多い
  • 音がなくてもひっかかり感だけのこともある
  • 多くがストレッチと運動中止で症状が減る

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参考
『高度な弾発股と股関節の機能障害を呈する殿筋拘縮症の治療経験』
東京慈恵会医科大学付属病院整形外科 稲垣直哉,大谷卓也,加藤努,川口泰彦,上野豊,羽山哲生,丸毛啓史

『空手選手に発生した比較的稀な内側型弾発股の1例』
熊本大学医学部整形外科 緒 方 宏 臣,水 田 博 志,千 田 治 道,高 木 克 公
保田窪整形外科病院 河 野 正 通