こんにちは。ほんだ整骨院の山内健輔です。
人の上腕骨は肩甲骨とつながっています。
ですが、肩甲骨は筋肉で覆われているだけで体幹部の骨とつながってはいないのです。
実は鎖骨を通してのみ上腕骨・肩甲骨は骨性のつながりがあります。
鎖骨がないと腕の動きが安定せず、手や指の細かい動きができなくなってしまいます。
鎖骨がつっぱり、肩関節を支えることで腕の動きの安定性を保つことができるのです。
そしてもうひとつ。
鎖骨の下には、大きい動脈・静脈、太いリンパ管、腕へ行く神経が走っています。鎖骨はこれらを外力によるダメージから守っています。
今回は「鎖骨」についてくわしく紹介していきましょう。
『鎖骨』はどんな骨?
このページでは「鎖骨」について紹介しています。記事執筆時点での情報です。
正確な情報を記すよう努めていますが、医学的視点や見解の違い、科学の進歩により情報が変化している可能性もあります。
ケガや痛みがある場合は、記事だけで判断せず、病院などで正しい診断を受けることをおすすめします。
鎖骨の形状
鎖骨を英語でいうと、
clavicle
「clavicle」は専門的な言い方で、一般的な会話で使われるのは「collarbone」。
鎖骨は、胸部上方の前面にあり、表層近くにある骨です。
あまり動いていない印象を受けますが、実はけっこう動きがあって、腕を使うためには重要な働きをしているんです。
ヒトには超重要な役割!
ヒト(ホモサピエンス)は直立二足歩行をすることで、上肢(手~腕)の自由を手に入れて、道具を発達させてきたといわれています。
上肢が自由に動かせるためには、鎖骨の存在が必要だったのです。
首周囲の神経や血管を守る!
肺や心臓は肋骨や胸骨で守られていますが、頚部近くには、大きな動脈・静脈や神経も走行しています。
直立している状態では、鎖骨がこれらを外力から守る役割をしているんです。
- 鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく)
- 鎖骨下静脈(さこつかじょうみゃく)
- 腕神経叢(わんしんけいそう)
これらの血管・神経の損傷は上肢に影響するだけではなく、全身の生命にも大きく影響します。
①鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく)
鎖骨の下にある動脈で、脳へも血液を供給する「椎骨動脈」(ついこつどうみゃく)や腕全体へ向かう「腋窩動脈」(えきかどうみゃく)へと分岐する。
②鎖骨下静脈(さこつかじょうみゃく)
上肢全体からの静脈血、さらに胸鎖関節(きょうさかんせつ)後方で頭部からの静脈血が合流。
加えて、全身からのリンパ液も合流する部分は「静脈角」(じょうみゃくかく)と呼ばれる。
③腕神経叢(わんしんけいそう)
下部頚椎~第1胸椎の脊髄からでる末梢神経。
複雑に絡み合って腕全体の皮膚や筋を支配している。
鎖骨とすぐ下にある第1肋骨の間を「胸郭出口」(きょうかくでぐち)といい、この隙間を通る。
上支帯を身体にくっつける
鎖骨は、内側が胸骨(きょうこつ)、外側が肩甲骨(けんこうこつ)と接続。
肩甲骨と鎖骨を合わせて「肩甲帯」(けんこうたい)。
さらに、鎖骨・肩甲骨・上腕骨を含めて(肋骨を含めることもある)、「上肢帯」(じょうしたい)とよびます。
その上肢帯が体幹部とつながるのが、胸鎖関節です。
つまり、上肢帯(腕~肩甲骨)は鎖骨を介して体幹部(胸骨)にくっついているといえます。
上肢帯は、鎖骨を通してのみ、体幹部と骨性のつながりをもつのです。
上肢(腕~手)の動きを安定させる
鎖骨には、上腕骨と肩甲骨が前方や内側に引きつけられないように、「つっかえ棒」のように位置を安定させる役割があります。
鎖骨がつっかえ棒の役割をすることで得られるのは、
上肢の動きの安定感
胸鎖関節が支点、鎖骨が軸になって肩甲上腕関節(肩甲骨と上腕骨頭の関節)の位置を固定することで、腕の動きを安定させ、巧緻(こうち)な作業も実現できるのです。
とくに大事な役割をしているのが、肩関節の内転と外転。
簡単にいうと閉じるのが内転、開くのが外転です。
鎖骨のない動物は前肢(ぜんし:前足)の内転・外転動作が苦手なものが多いんです。
私たち”ヒト”が上肢を自由に動かせるのは鎖骨のおかげでもあるんですね。
S字状で胸骨・肩甲骨と連結
胸骨側は「胸骨柄」(きょうこつへい)と胸鎖関節(きょうさかんせつ)をつくり、胸骨端(きょうこつたん)。
外側は「肩峰」(けんぽう)と肩鎖関節(けんさかんせつ)をつくり、肩峰端(けんぽうたん)と呼ばれます。
身体を側面から見ると、胸骨端の方が前方に出ているのがわかります。
前方から見るとほぼ「まっすぐ」。
上方から見るとゆるいカーブを描いて「S字状」。
長細いので長管骨に分類されます。
転倒時に腕を着いて、鎖骨を骨折(介達外力による骨折)することがありますが、この形状が変わる部分が好発部位です。
(形状の変わる部分とカーブしている部分が重なるため)
鎖骨と動物
前肢(前足)をもっぱら前進・後進のために使う四足動物の場合、鎖骨が退化して残っていないことが多いのです。
前肢を前進・後進以外の木登りや滑空などにも使用する動物には鎖骨があります。
サルや類人猿、ネズミなどのげっ歯類、コウモリなどです。
哺乳類以外でも鳥類にもあり、カエルには痕跡のような鎖骨が存在します。
一方、イヌやウシ、ブタなど前肢を歩行以外に使わない動物には、鎖骨がなく、前肢を内転・外転(閉じたり開いたり)が苦手な特徴があります。
前肢を「手」のように器用に操るために鎖骨が役立っているんですね。
その点、鎖骨は多くの場合、胸骨とつながっているために歩行や全力疾走では体幹部に衝撃を伝えやすくします。
鎖骨が手や指の動きと密接に関わることがわかります。
動物たちはそれぞれの生活様式に合わせて進化してきた様子が理解できる例ですね。
鎖骨がある動物は、人を含めて両前肢を横へ広げることができます。退化して小さい鎖骨しかない場合でも筋肉の付き方は残っているので、クマ・ネコなどは物を抱えることができます。木に登れます。鎖骨がない動物の場合は、上腕と身体は筋肉だけでつながっています。前肢は、前後の動きはできても横に大きく広がりません。
鎖骨につく靱帯・筋
鎖骨には多くの靱帯・筋が付着しています。
とくに上半身の筋力トレーニングでよく聞く大きな筋肉も関係します。
また、鎖骨の両端にある胸鎖関節・肩鎖関節は脱臼も発生しやすい部位です。
身体を鍛えるときにも、怪我をしたときにも筋肉や靱帯の付着する部位や方向は重要なので理解しておきたいですね。
靱帯
骨どうしを繋ぎ、接続部のズレを防ぐ役割をしています。
脱臼がある場合は、その関節にある靱帯が大きく損傷している可能性が大きいのです。
- 胸鎖靱帯(きょうさじんたい)
- 肋鎖靱帯(ろくさじんたい)
- 鎖骨間靱帯(さこつかんじんたい)
- 烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)※
- 肩鎖靱帯(けんさじんたい)
①胸鎖靱帯
胸骨柄(きょうこつへい)と鎖骨の胸骨端を結ぶ靱帯。
前後面から胸鎖関節を補強する。
②肋鎖靱帯
第1肋軟骨と鎖骨を結ぶ。
胸鎖関節を補強する役割。
肋鎖靱帯圧痕(ろくさじんたいあっこん)に付着。
③鎖骨間靱帯
左右の鎖骨胸骨端(内側)を結び、過剰な胸骨の挙上(外側が下がった時)を制限する。
④烏口鎖骨靱帯
内側の円錐靱帯(えんすいじんたい)と外側の菱形靱帯(りょうけいじんたい)を合わせて烏口鎖骨靱帯。
鎖骨肩峰端の持ち上がりを防ぐと同時に、鎖骨にぶら下がるようにして動く肩甲骨を制御。
円錐靱帯結節と菱形靱帯線に付着。
※肩甲骨は、鎖骨を軸にして振り子のように前後に動く(実際には上下にみえる)。
(鎖骨は鉄棒、肩甲骨は振り子のように)
⑤肩鎖靱帯
肩鎖関節を包むように走行している。おもに前後面を補強している。
筋肉
大きく強力な筋肉が多く、骨折や脱臼のときに「転位」(骨片のズレ)の原因としても重要になります。
- 胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)
- 大胸筋(だいきょうきん)
- 僧帽筋(そうぼうきん)
- 三角筋(さんかくきん)
- 鎖骨下筋(さこつかきん)
鎖骨の後ろには、大きな静脈(鎖骨下静脈)が走行しています。
さらに全身のリンパが集まって、静脈に合流する「リンパ角」が存在します。
太い管なので、なかなか詰まるということはありませんが、鎖骨に付着する筋肉を緩めることで全身の血流が改善しやすくなります。
とくに頭部からの血液還流を助けることになるので、顔のむくみや代謝の改善に効果があるといわれます。
「後頚三角」(こうけいさんかく)ともいわれる。
胸鎖乳突筋・僧帽筋・鎖骨上縁に囲まれた部分で、肩甲挙筋(けんこうきょきん)と後斜角筋(こうしゃかくきん)の触診に使われる。
鎖骨の動き
鎖骨には、動きがあまりないと思われがちですが、意外に動きがあります。
胸骨柄との「胸鎖関節」、肩甲骨の肩峰(けんぽう)との関節「肩鎖関節」の2つの関節があります。
胸鎖関節
上肢帯と体幹部を唯一つなぐ関節。
胸鎖靱帯・肋鎖靱帯・鎖骨間靱帯によって補強されています。
胸骨にある「鎖骨切痕」(さこつせっこん)に接続。
関節の形状は「鞍関節」(あんかんせつ)。
垂直軸(上からみて前後に)━30°(屈曲・伸展15°ずつ)
矢状軸(前から見て上下に)━50°(挙上45°・下制5°)
前額軸(横から見て回旋)━50°(前方・後方回旋)
関節円板(線維軟骨)が関節運動の安定性を保つのに役立っています。
(関節円板がない人もいる)
胸鎖関節が鎖骨の動きの視点になるようなイメージです。
馬に乗るための鞍(くら)のような形をしている関節。
くぼみ側(関節窩)とふくらみ側(骨頭)が噛み合うようになっていて、基本的に2軸性(2方向に動く)。
胸鎖関節の場合は関節円板があり、球関節のように多軸関節として働く。
肩鎖関節
鎖骨の外側端(肩峰端)と肩甲骨をつなぐ関節。
烏口鎖骨靱帯(円錐靱帯&菱形靱帯)と肩鎖靱帯によって補強されています。
関節の形状は「平面関節」(へいめんかんせつ)。
肩甲骨が鎖骨を軸に振り子のように動くときの支点になっています。(肩甲骨は胸郭を滑るように動く)
肩鎖関節の運動は肩甲骨がどのように動くかという見方をします。
- 前方(屈曲)と後方(伸展)(垂直軸)
- 挙上と下制(前額軸)
- 外転と内転(矢状軸)
平面関節なので、いずれの動きも可動範囲はわずか。
関節円板もあります。
鎖骨が関係する痛みや外傷
外傷は、おもに転倒して腕や肩をついた外力が鎖骨に伝わる介達外力(かいたつがいりょく)によるものが多いです。
また、頚部からの神経(腕神経叢)が鎖骨の下を通ることから、神経に触れてしまう障害も起きやすいといえます。
鎖骨骨折
肩部や手を突いた時の介達外力が多く、この場合、細くなっている外側(肩峰端側)のカーブしている部分が好発部位です。
完全骨折の場合、大胸筋や胸鎖乳突筋、上肢の重さの作用で短縮転位(互い違いに縮むようにズレる)します。
短縮転位した場合は、肩幅がせまく見えます。
胸鎖関節脱臼
鎖骨の胸骨端が前方に移動する前方脱臼は、腕や肩が後方に引っ張られて発生します。
後方脱臼は直達外力(外力が前方から胸骨端に加わる)によって起きます。
胸鎖関節部の変形が顕著に現れます。
肩鎖関節脱臼
手や肩を突いて発生します。
鎖骨肩峰端が上方に、肩峰が下方に転位します。
烏口鎖骨靱帯や肩鎖靱帯が損傷。
変形治癒することが多いので注意が必要です。
胸郭出口症候群(肋鎖症候群)
鎖骨と第1肋骨のせまい隙間を「胸郭出口」(きょうかくでぐち)といいます。
この隙間を鎖骨下動脈・鎖骨下静脈・腕神経叢(わんしんけいそう)が通って、上肢(腕~手)へ向かいます。
この胸郭出口部分でなんらかの障害を受けるのが「胸郭出口症候群」(きょうかくでぐちしょうこうぐん)。
とくに腕へと向かう腕神経叢が障害を受ける絞扼障害(こうやくしょうがい)が発生しやすいです。
「肋鎖症候群」(ろくさしょうこうぐん)とも呼ばれています。
脱臼や骨折などの外傷の後遺症としても生じることがあります。
何によって障害が発生しているかで以下のように区別されます。
- 頚肋症候群(けいろくしょうこうぐん)
- 斜角筋症候群(しゃかくきんしょうこうぐん)
- 小胸筋症候群(しょうきょうきんしょうこうぐん)
①頚肋症候群
第7頚椎から肋骨のような突起が伸びている人がいます。
それが頚肋(けいろく)。
頚肋が腕神経叢に触れると上肢に神経症状が生じます。
②斜角筋症候群
斜角筋は前・中・後に分かれていて、第1肋骨が停止部。
斜角筋が緊張して第1肋骨を引き上げることで、胸郭出口がさらにせまくなり、腕神経叢とぶつかる(締め付ける)障害が起きます。
③小胸筋症候群
胸郭出口を抜けた腕神経叢は小胸筋と肩甲下筋の間を通って、腋窩神経(えきかしんけい)になります。
小胸筋の緊張によって腕神経叢が障害を受けることがあります。
まとめ
- S字状の長管骨
- 上肢帯と体幹部を接続する
- 上肢の支柱となることで安定&自由度を高めている
- 首周囲の神経・血管を守る
- 手の器用な動物にはある。
- 胸鎖関節を支点に上肢帯が動く
- 鎖骨に関係する外傷も頻度は高い
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